2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

No.562 ブルーハワイと親しげな蝙蝠

彼の身体から 泡と青い色素が溢れ出て ブルーハワイが 浴槽を満たすと 匂いに釣られた蝙蝠が 浴室の窓の隙間から 羨ましそうに 彼の方を見つめていた 湯気に混じってアルコール 彼はひたすら酔っていた ブルーハワイはカクテルの 成り損ないのようだった 夏…

No.561 彼の瞳

彼の瞳には 強さと弱さが混在している 真っ直ぐ見つめているようにも見えるが 頼りなく遠くを見つめているようにも見える そんな彼の瞳に人は魅了され 心を打たれる スクリーンの中で動き回る 言葉を交わしたことのない(言葉すら通じない)他人に 自分を重…

No.560 とても居心地の良いカフェ

ブラックのコーヒーでも 大人になったわけじゃない 彼はお洒落なカフェで アロハシャツを着てニコニコしていた かじった林檎のマークは よく見てみると白いインクだ かちゃかちゃ立てている音は 彼の手の骨がテーブルに当たる音だ アロハシャツがとんでもな…

No.559 柱な男

彼の目の前を 大型トラックが横切った 括り付けられた柱は びくともしない 彼を此処に置いて行った奴らは 此処で彼が反省するとでも思っていたのだろうか 奴らは彼に酷い扱いをしていた 抵抗すれば暴力だって振るった 彼の目蓋の痣を見てみろ まるで 青い月…

No.558 蒸し暑さと闘う男

夜を漂う彼は 蒸し暑さと格闘していた とても長く 苦しい闘いだったが とうとう 彼は蒸し暑さを打ち倒した 経験値はいつもの通り 後で振り込まれるだろう 次に彼は 朝の肌寒さと格闘しようとしたが 朝にも蒸し暑さが参戦することもあり 昨日勝ち越したので …

No.557 正常な彼と隣に住む異常な男

自分を正常だと思っている彼は 他人と自分を比べて 優位に立っていると知れば 攻撃を止めず 自分が優位でなければ その靴を舐め回すのも厭わない 狂った犬だ 彼はそんな生き方をしているせいか 味覚がバカになってしまった 連日ニュースで 「味覚がしなくな…

No.556 目を真っ赤に充血させた彼

砂埃が目に入ってしまい 彼は猛烈に泣きたくなってしまった 泣いたら笑われるので我慢したが 周りの連中はクスクス笑っていた 砂埃を投げつけて 笑った奴らを 泣かせてしまいたくなったが 彼にそんな勇気があるわけがないので 砂を噛んだような顔をしていた …

No.555 memory

彼は煌めくものを見ていた ずっと前に無くしてしまったもの 探しても どこにもなかった それを やっと見つけた 暗がりで瞳を閉じると それを見つけられたので 来る日も来る日も そうして 焼き付けようとした (彼は教室に入り ホワイトボードの前を通った 奴…

No.554 HEAT

夜を睨みつける完璧な瞳 彼は光すらも黒く塗れそうだ 髪をかき上げ 煙草に火を点けた そのまま周りの空気にも火を点けた 彼の周りに円を描き 炎は細い糸のように回った 夜を睨みつけていた瞳は 次は時間を睨みつけていた 時間を移動して 彼は目的地に向かっ…

No.553 ずかずかずかずか

とぼとぼ歩いて煙草を買いに行く とぼとぼとぼとぼ トボコを買いに行く ぷかぷか 灰皿の隣でしゃがみながら ぷかぷかぷかぷか ぷかしている ピンク色のライターが落ちて コンクリートに頭突きをした 今日は何回 物を落としただろう ぼとぼとぼとぼと ぼーっ…

No.552 余白

全て過去形になる その前に 夢と消えてゆく その前に この思いを手紙にしよう 彼はそう考えて 筆を取る 言葉を探しても 出てこない 愛する人など もういない この思いは言葉でなく 彼の脳内で完結する 死んだ蝉の においにつられて 残された僅かな時間を数え…

No.551 beads

ビーズで出来た湖の中 裸の女たちが踊っていた 彼はスーツの中に狂気を忍ばせ その女たちに視線を送っていた シャンパンはいつものように冷え過ぎて グラスと指がくっ付きそうだった あまり持っていても仕方ないので 一気に飲み干して グラスはテーブルに捨…

No.550 真昼の退屈

僕と嫁は出かける準備をしている 嫁の妹と姪っ子二人と一緒にかき氷を食べに行く 昨日借りたブルーレイは置きっぱなしだ 一度観たものなので 観れなくても問題ない 蝉の声が遠くから聞こえる パワフルな日差しがカーテンの向こうで ベランダをうなだれさせよ…

No.549 不死身な彼の話

誰にも教えちゃいけねえと言われたが 言いたくてたまらない話を聞いたんだ 誰にも言わないと約束だけすれば良い それを破ったかどうかなんて 気にしなければ良い 彼はサングラスを付けていた そりゃあ高そうな服を着ていたらしい しかし 吹き溜りの酒場に酒…

No.548 気難しい彼はようやく報われた

彼に何を言っても通用しなかった 彼を慕う人も やがて彼に何も言わなくなった 一人の時間を愛するあまり 周りの人々は 彼に恐れを抱くようになった 毛針を作る時も 筆を持ちキャンバスを塗る時も 彼の頭の片隅には 体育座りをした少年がいた それは過去の彼…

No.547 スープ缶の絵のTシャツの男!

彼はスープ缶の絵のTシャツを着て 何処へ繋がるかわからない行列に並んだ Tシャツの中の絵は変色しながら 彼にまとわりついて気持ちが悪かった 首元を引っ張り 風を送り込んだとしても 張り付いたまま 生地は熱くなっていった それにしても 行列は全く動かな…

No.546 二本の煙草

スーツが煙草を吸いながら駅に向かった 道端に捨てても 暫く火は消えなかった 通りかかったハイヒールは煙草を踏み 火を消して 数秒見つめた後 駅へと急いだ ランドセルは 消えた煙草を掴んで 良く観察した後 駅へ走った シルバーカーは曲がった腰を叩きなが…

No.545 首を締められたい男

彼は自分で首を締めてみた しかし いつものようにはいかなかった 他人に締めてもらわなければならない 暇そうな女の連絡先を眺める 女はすぐにやって来て 彼が良いというまで首を締めて帰った 唾液が枕を濡らして 突拍子もない時間は過ぎ去っていった 彼はま…

No.544 誰も彼のことなど気にしない

全ての人が加害者であり 被害者である 彼はそんな風に思って 他人と接した 傷つけたり傷ついたりしたいわけではない 彼はそんな奴なのだ そうとしか言えない それから 彼は人生ゲームが好きだった いつもパイロットを狙っているが 良くてアイドルで 殆どがバ…

No.543 小さな光を追う男!

曇った眼鏡の奥から 彼は睨んでいた 雨の後に 少し冷えたアスファルトの先に 他と違う小さな光が見えた気がした その光が 疲れに効くだろうと彼は思った 宙ぶらりんの日々に疲れ果ててしまった 彼はその日 レッドブルを3度も吐いていた ガソリンを無駄にする…

No.542 窓辺のぬいぐるみたち

窓辺にぬいぐるみをいくつも置いて 彼は 一つ一つに名前を付けた ぬいぐるみは 名前を呼ばれると 大きな声で返事をしてくれた 彼は寂しい時や 辛い時 孤独に押し潰されそうな時 ぬいぐるみに話しかけた ぬいぐるみは話を聞いた 歳を取っても変わらなかった …

No.541 真っ白な車線

後ろに詰め込んだ荷物がこぼれそう (埃っぽいなあ 少し窓を開けよう) 煙草を取り出して 火を点けると 真っ白な車線が 少し揺れる だいぶ進んだ要らない物の整理 車で処理場へ 突っ走れば良い 真っ赤なポルシェも 真っ黒なbmも このオンボロを 追い越せない…

No.540 液晶に移住した彼

カメラのピントを合わせるように 彼は扇風機の位置を調節した 部屋に程良く風が吹くようになった 暑さが少しだけ和らぐ気がした 水を飲んでもすぐに垂れ流した 身体は重くて仕方なかった 彼の生活習慣は 夏に崩壊した 寝不足の瞳で 液晶に飛び込んだ 明るさ…

No.539 錯乱視

彼は左眼を閉じて 小説の文字を読んだ 右眼だけだと ミステリーに思えた 右眼を閉じて 左眼で読んでみると 不思議なことに ファンタジーに思えた 彼の右眼は 何事も疑ってかかる 左眼は 何事も信じてしまう それは電車の中の景色も 外を流れていく風景も同じ…

No.538 ダークマター

彼の瞳が 虚ろになって 周りで話す人々の言葉が 頭の中の穴に 吸収されていった 出口はない そして 何処にも行かない 人々は彼を見て(あっちに行った)と思った それからは彼を遠ざけて それぞれで楽しんだ 彼の前に置いてあるレモンサワーは 彼の隣の髭面…

No.537 イタチゴッコ!

そこはどこにでもあるような 汚らしい裏路地で 黒いスーツを身に纏って 彼は突然発生した 黒いスーツのポケットから 携帯電話のような物を取り出すと あたりに向けて 何かを測り 確認作業が終わると 歩き始めた 彼は明確な目的があった この街のどこかにいる…

No.536 彼の過ごした夜は微糖

ベンチに置いた缶が 再び手の平に触れると 彼は少し前の出来事を思い出した 百二十円を自販機に入れる瞬間 誰かが彼を 呼んだ気がした 振り返ってはいけないと思い 彼は振り返らずにその場を去った 公園のベンチで寛ぎながら 後悔して 自販機まで戻ろうかと…

No.535 泥団子を作る彼!

君は何も知らなかったから 仕方ないかも知れないね 彼は君に言えなかったから 難しいかも知れないね 空が高すぎて太陽は 同じ大きさに見えるのに 青を飲み込んでしまいそう 雲は仕事を忘れ 遊んでいる 砂場に手を触れただけでも 赤くなってしまいそう それで…

No.534 漂白された箱の中

清潔で白すぎる部屋に ゴキブリが一匹入って来た 黄ばんだ白い服を着た男たちは それを見て 手を叩いて喜んでいた ただ一人 壁にもたれかかり 上の空の青年は 伸びた前髪を見ていた 少しだけ興味があるにはあったが ゴキブリよりも 前髪の方が煩わしい ガス…

No.533 アイスクリームな彼

ミシミシ鳴るフローリング 少し浮いているような気がした うだるような暑さが硝子窓の外で 揺れながら 手招きをしていた 彼は涼しい家の中から出たくなかった しかし 外に行けばきっと楽しいだろう そう思って 硝子窓に触れてみたが 今にも溶けてしまいそう…