2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

No.595 テフロン!

彼の顔はいつもよりテカテカしていた それもそのはず 今朝テフロンを塗り過ぎた 強くなった気分で誰かに怒鳴りつけても 硝子で出来た心臓は変わらない 彼は熱くなり 顔の上で目玉焼きを焼いた パンの上に乗せて食べれば そこそこの味だ ベーコンは もうこん…

No.594 無駄なことばかり考えた男!

彼は頬杖をついていた 右の掌が 右の頬骨を突き破るほど もう何時間そうしているだろうか 明るかった空が 暗くなるのを感じた 思い耽ることの正体について 彼が知ることはなかった ただ 脳内に住む深海魚の群れに 空想の手を差し伸べようとしていた 深海魚は…

No.593 リトルチョップな彼!

彼は啓発をする本が嫌いだった 腐るほどある意見の中から 自分と合う意見を見つけられずに 勝手に仲間外れにされているような気がした そこで 彼は自分の考えたことを説くため 啓発本の作成に取り掛かった スムージーをチョップする方法や ビートルをスプリ…

No.592 ディストピアには彼一人

許されないならば許してやるな 彼はそう思った そして許さなかった 人を愛することから逃げ過ぎて 一人で迷い込んだ ディストピア 森のように生えたビル群を 遠くから双眼鏡で眺めながら 彼はいつも ブツクサと言っていた それ以外の時間は 集めたものを数え…

No.591 ソファに座りながら

クリスタルのティーポットの中に ハーブティーを入れながら 彼女は言った 「あなたを止める気はないわ ただ…」 彼はソファに座りながら 彼女をまっすぐ見つめた 「ただ どうなるか分からない 世の中にはどうにもならないこともあるわ 責任を取れるなんて思え…

No.590 月と彼

彼は刑務所の前で誰かを待つフリをしていた 出所祝いに貰った吸い慣れない煙草を吸いながら 何もやらなかった罪は 思ったよりも彼を閉じ込めた 瞳を閉じて 深呼吸すると 煙草を捨てて歩いた いつの間に 何も知らないような顔で 彼を育てた街は 彼を出迎えて…

No.589 ブンチョウ!

放し飼いにされても 決まったルートを 行ったり来たりしているだけ 彼の相棒は羽ばたいて テレビから 部屋の角を曲がって またテレビに戻る 「窮屈な部屋にある 道標は何だ?」 彼は聞いてみたが 「とっても楽しい一日の始まり」 それしか返事はなかった 「…

No.588 眠れない彼は眠りたい!

彼の向こう側で夜が明ける 日差しが少し 溢れるくらい 昨日までのことが嘘のようで また引き戻される感覚 彼の向こう側で雨が降る 日差しは少し フィルターにかけられ 降り注ぐ場所を失った光は 雲の上で退屈そうにしている ソファの上で ベッドの上で 誰か…

No.587 幸福な彼に祝福を!

彼は目覚めると 祝福を受けていた 父も 母も 妹も 弟も 拍手をしていた 全てのものが白く統一された部屋で 彼は 今日起こることに期待を寄せた 彼はまず コックの格好に着替えた 帽子のシワをピッシリと整えた 鏡を何度も見て 思わず笑みが溢れた 何にも変え…

No.586 彼がアンナに出来ること

水が滴り落ちて 地面に溜まっていく ちゃぽんと鳴って 広がっていく 彼はその音を聞きながら 瞳を閉じている ひんやりとした洞窟の中で 瞑想をする しばらく経つと 一匹の鼠がやって来て 彼の太腿を一口食いちぎる 太腿の肉は鼠の腹の中で 彼を名残惜しく思…

No.585 クルーは今日も怠け者!

体調を崩した時計が 彼を起こさなかった 昼に起きては もう夜まで寝てしまいたい そう思いながら ウトウトしていると 宇宙船の外で 爆発音がした 穴はバルーンですぐに塞がったようだ 中にあった本が数冊溢れて 銀河の果てへと漂うだけで 一番大切な本は枕元…

No.583 汚物な彼

汚い瞬間に 汚い言葉を吐いた 彼は誰かを傷付けたかっただけだ そして 彼も攻撃を受けて 誰も得をしない時間が過ぎていった 彼が孤独を感じるようになるまで 彼を思い続ける人は居るだろうか 汚い瞬間はまた 必ずやって来て 汚い言葉も 誰かの口から吐き出さ…

No.582 彼と野良犬

立ち止まると ついてきた野良犬も立ち止まった 彼は振り返り 屈んでみた 野良犬はじっと彼を見つめたまま 近寄ることはなかった 彼が歩き始めると 野良犬はやはりついてきた 背中に美味そうな匂いでも付いているのだろうか? そんな考えで 服に鼻を当てて嗅…

No.581 ローズ!

お香に火をつけて 彼は数秒動けなくなった いつもと違う香りが 部屋に充満して 気が遠くなった このお香では 別次元へと行ってしまう 壁は紫になり 床は緑になり 屋根は気が遠くなるほどに黄色くなる 鼻をつまみ お香を消して ぐるぐるとする頭を抱えながら …

No.580 二人のヒーロー!

拙い言葉でまくし立てた 彼はいつだって 真面目な顔で 本物のヒーローについて 自分なりの思いをぶつけていた 彼の友人は耳にたこが出来て そのたこすら 彼の話に辟易していた しかし本物のヒーローは 彼の知らない場所で 今日も闘っていた 「ああ 変わった…

No.579 彼の爪!

爪が伸び過ぎた彼 爪切りを探しても見つからない ハサミで切ろうとしたが ハサミが欠けてしまった ハサミは彼を責め立てた 彼の寝ている隙に 髪を切ってしまおうと思った 実行には移さなかった 爪はすくすくと育って 可愛くて仕方がなくなった 彼のお気に入…

No.578 ジョークグッズ!

リザトリプタンは冗談抜きで効き目があった バスキアの絵のような頭の中の痛みが モンドリアンの絵のように整理された かといって 全てが解決したわけではない 彼が目玉を奥に押し込めて 痛みを忘れた脳に突っ込んでやりたくなった 衝動を抑えて歩いて行った…

No.577 虫の音を聴く男!

過ごしやすくなってきた夜に 虫の音をじっくりと聴いている その音は 今日あったどんな出来事よりも柔らかい 鼻血を流しながら 彼は優しさに包まれた 今日は 彼にとってかなり苦しいものだった 全てのものが彼に敵意を剥き出しにして 顔面を中心に殴られるよ…

No.576 鳥と彼!

同じ色で同じ大きさの 五階建ての建物が並んでいた 彼はその建物の呼び名を知らないまま 中へ入って探索をした かつて人の居た痕跡があった 状態の良い家具が残る部屋もあった しかし 大体のものは崩れ落ち あとは砂になるだけのようだった 彼は屋上へと上が…

No.575 通せんぼ!

通せんぼされた彼は どうしようか迷って 手を広げた人々の上を越えようとした 痛がる顔で まだ通せんぼの格好で 人々は頭や肩や膝を痛めながら 彼を登らせた 超えた先には さっきよりも多くの人が 通せんぼしながら 彼を睨みつけていた 超えられた人々は 彼…

No.574 蜘蛛と雲と彼!

蜘蛛が巣を作るのを見ていた 彼には帰る場所がなかった いっそのこと 粘ついた糸 絡みついて離れられなくなれれば 雲が落ちてくるのを眺めていた 彼には向かう場所もなかった いっそのこと 重く鈍い音 叩きつけられて動けなくなれれば 雨は蜘蛛の巣を洗い落…

No.573 ノモフォビアに導かれ

液晶の中を漂う 宇宙船に一人 彼は自由気ままな冒険者 そして迷子 緑と青と赤の 惑星を旅してきた 退屈はどこにも見当たらない 緑の星には文字のオブジェが 彼の知らない並び方をして たまに聞こえる大きな声が 空の上でけらけらと笑っていた 青の星にも文字…

No.572 彼の靴!

履き心地の良い靴で 家を飛び出した 3歩進んだところで 彼はつまずいた 顔面がコンクリートに突き刺さり 抜けなくなって 助けを求めた 近所に住む主婦が 彼を見つけて 「今日も精が出るわね」と抜かしやがった 彼は怒りで 言い返したくなったが コンクリート…

No.571 おめでたい彼!

暗く 狭い 洞窟のような ワンルームは 言うほど悪くない 彼にとっては そこが全て 守るべき場所 どれだけ散らかっても 片付けると全て消えてしまいそうで 決まった場所に リモコンを投げる 空のペットボトルも古い雑誌もボールペンも 乱雑に見せかけた 計算…

No.570 280円の旅

彼女は髪を整え 服を着替えた 彼はその間 煙草を吸った 午前10時 目的地は隣の駅 歩いてもそれほどかからない 道を間違えても 全て知っている 駅までの距離を 測るまでもない どうしようもないほどに 晴れた空には 不安なことは 何一つない 140円の切符を 2…

No.569 起きながら居眠り中の彼!

一回分の魂 一回分のジェラシー 臭いがきつい 冗談を解き放ち 彼は思い出し コンビニの袋に 全てを放り捨てて 新しくなった気がした 毎日同じ話 毎日同じ時間に 電車に乗って 揺られて 誰かに怒鳴られて 聞こえないフリ 彼のプライバシー 誰にも見せたくない…

No.568 海中家族旅行

海底を走る最新式の電車があった 皆 息が出来ないということは忘れていた 古い魚雷が うずうずと動き出しそうだった 関係ないが 最新式のマックと古いマックの話をした 彼は その夢の中で 何も疑うことはなく おかしなことなど何もないと感じていた 「向こう…

No.567 知らぬ間に旅する男!

風船を拾った 木にかかっていた 登る時にたくさんの人に見られていたが 彼はこれっぽっちも気にせずに 手を伸ばし しがみ付き 風船を拾った 昨日ツイてなかったおかげで 風船を見つけることが出来た 彼はとても嬉しくて 小躍りしたいのを我慢しながら家に帰…

No.566 ALOHA!

耳が聞こえなくなりそうなほど イヤホンの中で育った果実 彼がこうして 歩くたびに 果汁が溢れて 耳から涙 不安定な視界の中で やけにピントが合うのは なんでもない ただの洋服屋 彼は5000円のアロハシャツを見つける 半端な気持ちでフラッと立ち寄ると 谷…

No565 焼き鳥

芳ばしい香りがして 彼はたまらなくなった こんなにも切ないことがあるのだろうかと 自問自答して 自分が情けなくなった まあいつものことだが 今回は程度が違った 彼はとても死にたくなった 未だ 微かに聞こえる奴の鳴き声で 朝に起きていたことを思い出し…