No.568 海中家族旅行

 

 

海底を走る最新式の電車があった

皆 息が出来ないということは忘れていた

古い魚雷が うずうずと動き出しそうだった

関係ないが 最新式のマックと古いマックの話をした

 


彼は その夢の中で 何も疑うことはなく

おかしなことなど何もないと感じていた

「向こうに死体があった」と聞いて

泳いで行くと ダッチワイフが大量にあっても

 


ガッカリして文句を言いながら

最新式のはずなのに 幽霊となって

ガタガタの車両を引きずって走る

無人の電車を見ても 少し怖かっただけ

 


彼の父親も 母親も

(おそらく彼の彼女であろう)綺麗な女も

その他周りにいる全ての人も

そこが夢の中だということを忘れていた

 


夢と気が付かないことの中で

一番驚きだったのは 両親だ

彼が知る限り お互い嫌い合う姿しか知らなかったが

まるで 新婚のように仲が良かった

 


それがどれほどの奇跡か

彼が思い描く中で ダントツで1番だった

おそらく 人類が火星に行くよりも

不老不死となって データの世界で生きていくよりも

 


何かのきっかけで 何かに吸い込まれそうになった

彼は 海底の一人用エレベーターの中で

名残惜しくてたまらない気持ちを抱えたままで

やっと これが夢だと気が付いた

 

 

 

 


起きてしまえば 現実なんてつまらないもの

夜更かしな若者たちが 下でゲラゲラ笑いながら

バイクで走り出す爆音が聞こえて

彼の中で 一気に冷めていくのを感じた

 


海中での家族旅行を

覚えていられる時間はそうないだろう

しかし 忘れてはならないことだけは

書き留めておきたくなり 彼は筆を取った