2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

No.377 読む男

本棚は気が遠くなるほどに高い天井まで届く 整然と並んだ本から 彼は一冊の絵本を取り出す 子供に読み聞かせるには分厚すぎるが 時間が余りある彼には物足りないかも知れない その絵本は ある王国に生まれた王子が 怪物と戦い 成長していく物語だった 重そう…

No.376 バスに乗る男と運転手たち

バスの後ろ側には一人きりの影が伸びている 座席が暖かく 眠くなってきた男は 夜の街並みをぼんやりと眺め 額を窓に付けて息で曇らせる たまに 小さな虫が窓に当たる バスにぶつかった虫は 何事もなく飛んでいるのだろうか それとも 死んでしまうのだろうか …

No375

ひんやりとした空気が漂う洞窟の中を歩く男は まるで内臓の中にいるような感覚に襲われた 上から滴る水は消化液のように感じて 溶かされるのはそう悪くないと感じた 彼は弾を一つだけ込めたピストルを スーツの内ポケットに入れていた 静かな部屋で飲んだく…

No.374 雨の日の男

打楽器のような雨の音が窓越しに聞こえる リズムが頭を振動させて何かを刺激する 男はタイプライターやキーボードを描いて 壁に貼り付けて遊んでいる 白い壁には所々シミがあり 彼はその一つ一つにあだ名を付ける 香ばしい香りがしてきたので コーヒーメーカ…

No.373 同じ夢を見る男

ただの夢であれば 朝起きて 昼が過ぎ 夜になるまで 覚えているはずがないだろう 彼はその夢を抱えたまま また眠りに就いて 同じ夢を見ることだろう /* 夢の中 煩わしいもののない丘の上に ひっそりと立つ小さな小屋 ひんやりとした空気の中で 木でできた食器…

No.372 キャリーバッグの男

詰め込み過ぎた荷物で惑星くらいの重さになる 夢を詰め忘れてしまった高身長の男 眉毛が釣り上がり 唇は薄く 瞳は青く 大きい 垂れた目尻は憂いと期待を含んでいる 彼が改札を通り 東京駅を降りる時 誰かの引き止める声がしなかったら 惑星を運ぶ彼のキーホ…

No.371 想像写真

モノクロの笑顔は皺が綺麗に刻まれる カラーの思い出は 色褪せることは無い でもどうだろうか その写真を見る男は 写真に写る老人の名を知らない 勝手にモノクロの皺を眺め 勝手に幸せだったろう日々を想像するだけ それは世界で一番無駄な行為で 例え老人と…

No.370 キャラメル

力強く生きる人々が居る 嵐の中を平然と歩いている 彼は そんな人々を見ながら 物思いに耽けることが多い 彼がこの街にやってきたのは去年の夏だった どこから来て 何をしてきたか そういうことを話さなかったので この街の人々は誰も彼のことを知らない た…

No.369 SOFT:3.ニクキュウ

こころがかわく ひざしもつよく ひあがるノドも やけつくツメも キイロのハッパも とろけるノウも みんなみんなが たいようのせい アスファルトには ニクキュウのあと ニクキュウじるし においがすごい ボンネットのうえ ひるねのじかん ハナをくすぐる チョ…

No.368 雨に濡れ

傘を差す後ろ姿を追いかけても 行き交う人に溶けていく影 車に跳ねられた水が足にかかると 彼は追いかけるのをやめた 傘を捨てても流されない思いが 頭の中で降り続いている 水は冷たく 彼の体温を奪う 魚になっていくような感覚 傘を拾って 折れている骨を…

No.367 穴空き坊主に風が吹く

よそうしゃもじに穴が空く 茶碗の底にも穴が空く たまげた坊主が土捏ねて 粘土細工の茶碗を作る 歪な茶碗はすぐに割れ 白飯も茶色くなる始末 あきれた坊主は金槌で 鋼鉄細工の茶碗を作る 硬い茶碗は口を切る 白飯も真っ赤になる始末 懲りない坊主は息を吐き …

No.365 草原

彼はいつまでもここに居たいと思った 朝日から夕日まで オレンジと青の空を眺めた 草原は柔らかく カーペットより心地良く 彼のそばにあり その一つ一つの草を撫でた 夜になり 星が出ると 彼は家へと歩いた そのままにしてある写真立てが 食器が 戸棚が 静か…

No.364 ひとりごとの波

ぽつんと響いて 波紋が広がり いつまでも広がり続け ぶつかるものもなく 当たり前のことを連ねる異常者たちの日常を 必死に眺めて 真似しようとする 誰よりも不謹慎な笑い顔で 彼はぽつんと ふたつめを言う 波紋は広がり続け やはりぶつからない ひとりきり…

No.363 スイッチ

男が一人 スイッチがひとつ 誘惑に負けて そのスイッチを押すと 辺りに紙吹雪が舞い 彼の頭に 色とりどりの折り紙が乗る スイッチをまた押すと 海水が流れ込み コンクリートで覆われた彼の部屋はなくなり 巨大なクジラが住む湖の底で 揺らめく海面を見上げ …

No.362 地中で迷った男

土を掻き分けて 地上を目指す 地底はあまりに 静か過ぎた 泥が流れて 口の中に入る 男はミミズに 悪態をつく 彼がこうやって地面の中に居る理由を 誰も知るものはいない 彼自身も忘れている 泥を避けて 土を掴み 上へ上へと進む まだまだ地上に着く気配はな…

No.361 喪家

強く吹く風に飛ばされていく紙切れ 宛もなく彷徨っているような通行人 暗く沈んだ瞳の中に獣が隠れている それから 彼は髪を切りたいと思った 冷たくなってきた空気から身を守るために ダンボールでスーツを作ってみたくなったり それよりも前髪が伸び過ぎて…

No.360 押し入れ!

引き戸を閉めて 暗闇の中 押し入って 息を潜めている 孤独は 彼を追い込んで 未来という場所から 彼を付け狙っている 引き戸を開けて 電球の下 押し出され 眩しさにやられ 頭痛は 彼を問い詰めて 脳髄という檻で 別れの手紙を書いている 引き戸を閉めて 沈黙…

No.359 沸騰

スニーカーの紐が解けていた 彼はそれに気付かずに走っていた 血だらけの膝はじんじんと痛み その痛みで また転けて 傷付いた 紐が見えない彼は 何処かへ急いでいた 何かから逃げているようだし 追っているようでもあった 「さて 頭の悪い彼のことだから も…

気まま日記 10/7 2

・アニメについて 夏目友人帳、知ってはいたのに、偏見で見てこなかったことを悔やんでいる。 とても面白いので、なぜ面白いかを、自分なりに考えてみた 1、ニャンコ先生が可愛い これはシンプルで、重要なことだと思う。 あんな可愛い生き物を見た事がない…

気まま日記 10/7

・映画について ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドを少し前に観て、もう今年はベストが決まったと思っていた。 この映画は、タランティーノの愛が溢れる作品だと思った。 映画への愛が溢れて、見ていて笑顔になってしまった。 楽しくて仕方なく…

No.358 虹色の銃口

銃口を咥えた像が 公園の真ん中に建っていた 男はそれを見ながら 煙草を吸っていた 季節外れの気温で茹だった脳みそは 像が揺れ動いていると彼に思わせた 敵はどこからともなく 音もなく やってきた 銃口を咥えた像を気ままに見続けることも出来ず 彼は膝の…

No.357 ハッピーエンド

彼はもう誰も傷つけないように 暗闇に紛れ 人目の付かぬように暮らしていた 罪の大きさと その多さを思い返す時間が 彼が生きてしまっている実感になっていた ある日 少女が突然やって来て 彼にこう言った「助けて欲しい」と だが彼は心を閉ざし その日は少…

No.356 SOFT:2.カモフラージュ

ちがあふれ みつかりそうな もりのなか はなれたばしょに だれかのけはい くるしさを おちばつかんで たえしのぶ あたまのうえを からすがとおる ゆめをみた やさしいシャチと たわむれた それからうみを のみほしてみた めがさめて なにもないので がっかり…

No.355 SOFT:1.ミルフィーユ

ミルフィーユの なかに なんまいも ちずがある フォークで きれば たのしい くちに いれれば すばらしい さて ミルフィーユのちずに しるしがついたばしょを さがすか フォークで ぜんぶきりとり はらのなかで とかしてしまおうか まよったあげく ねむい ベ…

No.354 ハコ

箱の中で蠢く影 蓋を開けても何もない 閉めた途端に騒ぎ出す 蓋を開けたら黙り込む 箱の外で蠢く彼 蓋に塞がれ不貞腐れ 蓋が開くまで黙り込む 沈黙に狂い騒ぎ出す からんころんと鳴る時は 箱の子供が遊んでいる ずるずるずると鳴る時は 箱の大人が話している…

No.353 二万円のガム

男は味のなくなったガムに砂糖をかけて 歯と歯で挟む遊びを続け 前を向いた 彼の行く先には 人々が吐き捨てたガムがあり それを踏まないように ガムを噛んで歩いた (新しいガムを買うまで このガムで我慢しよう) そう思った彼の強靭な顎は きっと人骨でも …

No.352 シキとカケ

コインランドリーの回転が 頭をぐるぐるかき回す 布団の頭はどこにある きっと彼の頭の方 乾燥機の暑さは丁度良く 布団は居心地良く過ごす 取り出しに来た彼の右手には マルボロの香りが付いている 家に帰るとクッションの上 布団はふかふかな感触の上 ふた…