No.374 雨の日の男

 

 

打楽器のような雨の音が窓越しに聞こえる

リズムが頭を振動させて何かを刺激する

男はタイプライターやキーボードを描いて

壁に貼り付けて遊んでいる

 


白い壁には所々シミがあり

彼はその一つ一つにあだ名を付ける

香ばしい香りがしてきたので

コーヒーメーカーへと向かいコップを用意する

 


喉が熱さを感じる時

彼は幸福はこんなものなのだろうと感じる

外へ行かなくて良い夜は

従順な犬のように人懐っこい

 


一つの詩を思いついても

コーヒーフィルターの中で冷めていく

彼は煙草の吸殻をそこに入れて

飲み終わったコップを洗う

 


乾いてゆくコップのように

いつの間にか雨の音は聞こえなくなる

白い壁のシミも見えなくなってしまい

再び雨の日が来るまで彼は待つ

 


次に雨が降ったのは二日後

彼はいつもそうしているように寛ぎながら

雨の音の中でコーヒーを淹れて

思いついた詩を捨てる

 


白い壁に乱雑に置かれた

タイプライターとキーボードがその詩を覚えている

安上がりな彼の一日のうちで

最も高価なものが白い壁の中に貯め込まれる