No.392 置き去りの傘とミルクティーになりたかった男

 

 

雨に降られて 置き去りなままの傘を

こんな風に思い返す 彼は真っ白なまま

 


日焼けしたのがいつの頃か忘れ

病弱な白さが際立ってしまう

彼の頭の中にある音楽は

彼よりも白い音を鳴らしている

 


彼が紅茶の風呂に入れば

ミルクティーのように変色して

健康的な生活と

甘そうな言葉を手に入れるかも知れない

 


雨に降られる 置き去りにした傘を

あんな風に投げ捨て 彼は真っ白なまま

 


電車に揺られると さらに彼は白くなる

彼の身に付けるものが全て 白くなっていく

生気をなくして 行き場もなくして

最終的には 辺りに散らばることしか出来ない

 


彼が紅茶の布団に入れば

ミルクティーのように溶けだし

刹那的な安定で

甘そうな永遠の眠りに入るかも知れない

 


雨に降られて

置き去りになった傘は

彼の白い手形が

身体にあるので 嫌がった

 


紅茶の雨が降れば

彼の健康的で刹那的な生活は安定し

白く染まり続けることも

辺りに撒き散らされることもなかった

 


永遠に広がり続ける彼は

永遠に起き続けなければならない

雨となり 誰かの傘に当たるために

置き去りにした傘を 思い続けなければならない