2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

No.306 コンクリートの深海魚

人が行き交う 繁華街の隅っこで 金をばらまきすぎて死んでしまった男がいた その男の友人が花を手向けると 車がそれを轢いた 弾痕があった 壁に無数に空いていた その穴のひとつに 轢かれた花の欠片が入った 穴の中で暮らしていた男は 紅茶の中に入った その…

No.304 箱

預かった荷物を 捨てるに捨てられず 彼は酒の瓶と一緒に それを抱えていた 誰から預かったのかも 覚えていない それは中身もわからない綺麗な装飾の箱だ 中から時計のような音が聞こえた 後に換気扇の音が聞こえた ある時は赤ん坊の泣き声が聞こえた 次の日…

No.303 イルカたち

エスカレーターの人混みが 陽の光のせいでイルカの群れに見える あの有名な「綺麗なだけの絵」のように 薄っぺらな空白の中を泳いでいるように見える 銀色が通り過ぎる 名残など何も無い イルカたちが降りて イルカたちが乗って 水族館のような塊が 何事もな…

No.302 プラスチック

私は 自分が男だったのか女だったのかさえ忘れてしまった 飲み過ぎた薬の瓶が転がり落ちた血だまり バスタブで八つ裂きになった私の身体を眺めた なるほど と思うが やはりどちらともつかない 至る所に痣と 引っかき傷があった 金属バットと愛し合ったような…

No.301 幸か不幸か公園

蜘蛛の巣が髪に引っかかる わしゃわしゃと払い除けようとする 後頭部に刺激が走ったかと思うと ニヤけた蜘蛛が舌なめずりして木の上に逃げてゆく 彼は苛立って 小石を蹴ろうと踵を持ち上げる 後ろにあった石にぶつけ 骨が軋むほど痛む まだ違和感のする右足…

No.300 針と膿

美しい女が笑っていた 彼はその女に見覚えがなかったが 美しさに目を奪われ 何時間もそこで見つめていた ふと風が通り 無数の針が彼の頭上を掠めると その女に突き刺さり 安全な剣山のようになってしまった しかし 女は笑っていた そして 美しかった こちら…