No.606 ドラゴンの棲む森
ある日 僕は大きなドラゴンと会った
誰にも言ってはいけないと言われたので
誰にも言わないよう心に誓った
言わなければいけない誰かは元からいなかったけど
ドラゴンはとても退屈していた
最近は戦争もなくて 活躍する場所がないらしい
僕はそんなドラゴンの背中でくつろぎながら
平和がいかに貴重なものか話していた
次の日 ドラゴンに会いにいくと
そこには何もなくて ただ生い茂る草と
大きな木々と 小鳥の囀りと
程よく差し込む日差しがあるだけだった
仕方がないので 夜になるまで
ゆっくりと流れる時間に身を任せ
何も考えないように頑張ってみたけれど
結局ドラゴンのことばかり考えていた
次の日 ドラゴンはいないと思いながら
ただ何かから逃げるように そこへ向かうと
大きな寝息を立てているドラゴンがいて
僕は心の底から嬉しいと思った
どこに行っていたのか尋ねると
遠い遠い国の戦争に仕事に出ていたと答えた
僕は魔法陣を書く手を止めて
そこがどこか 詳しく話を聞いた
次の日 ドラゴンはいつもの場所で
傷だらけにになって横たわっていた
僕の手が身体に触れても反応はなく
温もりは氷よりも冷たく変わっていた
僕は全力で走って帰った
扉を閉めて 埃が降り積もる部屋のソファに座り
そのまま眠ってしまえないかと考えながら
やっぱりドラゴンのことばかり考えていた
僕はいつの間にか眠っていたようだ
コントローラーを握りしめたまま
頬に出来た線を消すために洗面台へ行って
蛇口をひねって 顔を洗った
頭がすっきりとしてしまうと
どんな夢を見ていたか忘れていった
とても長くて 優しくて 悲しかった気がした
鏡の中の僕は とても複雑な顔をしていた
笑っているような 泣いているような
幸せそうにも見えるし 不幸そうにも見えた
目の下のくまが酷かったせいなのだろうか
そんなことよりも 早く続きをやらなければ
ゲーム機は熱を持って凄い音を立てていたが
そのままテレビの中に映ってくれていた
大きなドラゴンが 眠ったままの姿で
日の光に照らされながら 僕を待ってくれていた