2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

No.414 少し更けた夜の歩道橋

図画工作の時間に描いたマンションの絵 四角は無様にずれて情けない 彼の思い出に出て来る学校の先生は マンションの絵を褒めてくれていた 彼は今 その絵のような景色を見ている あらゆる四角がずれて 光が伸びる 瞬きをするたびに溢れる涙が その四角と光を…

No.413 空白の時間

驚くべきことに 彼は道を歩いていた 洗濯機の中から取り出したばかりのような ビショビショに濡れた服を着て 鉄のように重たくなった鞄を提げて まるでパントマイムのような人生 ありそうでなかった物に囲まれて なさそうであった者に見捨てられ 彼は銃弾が…

No.412 星の砂

飛行機が通った 飛行機雲が空を割った 暗闇が顔を出し 小さな光の粒が見えた 彼は吸い込まれるように浮かび上がり 高く高く飛んで 星の砂に手を触れた 今まで出会った女の破片のようで 懐かしい気分で 彼は見上げた 暗闇に入ってしまうと冷たく 震えが止まら…

No.411 健気な休日と彼

味のついた憂鬱が 煙草の煙と昇る 低すぎる屋根に寝癖をからかわれ 彼は不機嫌にも味をつけて ポテトチップスと一緒に平らげる 二つに割った心臓の一つを ガラスのケースの中に入れて それを見ながら何かを飲みたくなって 彼は水道水で喉を潤してみた 憂鬱よ…

No.410 図太い男

緩やかなカーブを描く道を ふらふらと傾きながら歩く男 急な坂道に差し掛かり ひらひらと零れ落ちてゆく男 宝物を心の中に仕舞って 秘めた欲望も 一緒に奥深く仕舞って 知らず知らず 図太くなる身体が 風邪をひかないように 彼を馬鹿にする 見知らぬ顔にどん…

No.409 501号室

換気扇が煙草の煙を吸い込む ステンレスに映った彼は歪んでいる ガスコンロを置くべき場所に座り 吸い込まれてゆく煙を目で追っている 大きなガラスの扉の向こうに 同じような階段と窓が並んでいる 自動車の音が聞こえて 誰かの声が夜の静けさの中で響く 凍…

No.408 青い空

いつものように彼は時計を見た 短針と長針が曲がり過ぎて時間がわからなかった 秒針が高速で回り 手首を削り取ろうとしている 彼は目蓋を閉じて 眼鏡の跡を押さえた 裸眼の世界はいつもより激しく動く 抽象的な人間の図が様々に移動していく 色は奇抜さを覚…

No.407 高い革靴の男

明日の天気を占うために 高い革靴を駄目にした 男たちにとって 大したことではない ただ財布が少し軽くなるだけ 長身長髪で声の低い男と 中肉中背で声の高い男が 短足短パンの男を撃って 高い革靴の男は大喜びした 長身長髪はこう言った 「好きなだけ暴れよ…

No.406 彼と彼の部屋

悲しみに打ちひしがれて 背を向けた過去の罪を数えて 彼の瞳は暗闇に紛れて 明るく輝く窓の外を見ている 昨日見た夢の続きを見たくて 眠っても朝は残酷に訪れ 彼を守る術を 彼自身が忘れて 昨日と全く同じ景色を見る 素晴らしいことが 愛すべきものが その指…