No.412 星の砂

飛行機が通った 飛行機雲が空を割った

暗闇が顔を出し 小さな光の粒が見えた

彼は吸い込まれるように浮かび上がり

高く高く飛んで 星の砂に手を触れた

 


今まで出会った女の破片のようで

懐かしい気分で 彼は見上げた

暗闇に入ってしまうと冷たく

震えが止まらず 肩を抱えて目が覚めた

 


昨日拾った女が寝ていた

彼はため息をついて 時間を確認した

午前三時 朝とは呼べない

彼は仕方がないので 目を瞑ってみた

 


次に見た夢には 古い友人が出て来た

「お前は相変わらず 浮いてやがるな」

彼にとってその言葉は痛かった

「そうでもない これでも時間は経った」

 


目覚めて 朝日がカーテン越しに輝き

頬に流れた涙の跡を拭いて 横を見た

昨日拾った女がこちらを向いていて

「大丈夫?」と聞き 心配そうに笑った

 


彼はその女を捨てて また拾って来た

今日の女は 昨日の女より騒がしかった

夜は長くなり 朝までそれが続いた

朝日を見る頃には 彼は死にたくなっていた

 


本当に空が割れて 暗闇が彼を連れ去り

星の砂と混じり合い 小さな銀河に変わった

深く広がる永遠に抱かれながら

彼は孤独を育てるための道具に変わった

 


星の砂が溢れ 降り注いだ先の女は

昨日の男を思い出しながら ため息をついた

拾ったは良いものの 大したものではなかった

拾わなくて良いものほど 捨てなくても良かった

 


何よりも優しいのは 全てを諦め忘れる心

口紅を塗りながら 彼女は鏡に問いかける

「私は何をしているのだろう?」

彼の破片が疎ましく思え 口紅を置いた

 


箒で降り積もった星の砂をちりとりに集め

いつものように排水溝に捨てた

今日の男を探すために街へといく時間になった

今日はどんな虫が寄り付くだろうと考えていた

 


金を持つ虫は 彼女を買ったつもりでいた

嘘で塗った鎧が 彼女の身を守っていた

うたた寝の夢に出て来た昨日の男が

彼女の本音を引っ張り出そうとした

 


彼女を抱いた金を持つ虫は

彼女の心の中の誰かの存在に気が付き

そっと部屋を出て行ったので

彼女にとっては都合が良かった

 


次の日から 

彼女は今日に男をあてがうことをやめた

永遠に連れ去られても存在するなら

諦めることや忘れることを増やしたくなかった

 


彼女は貯金でオープンカーを買って

納車を待ち 届いたらすぐにキーを回した

そこらに落ちている空き缶を集めて

紐で車の後ろに括り付けて 一人走った

 


空き缶が甲高い悲鳴をあげていた

彼女の中でも何かが弾けた

これが孤独の醍醐味というやつかと

膝を打ち ハンドルを切った

 


ゼリーで出来たようなガードレースに乗り上げて

彼女は音速を超えて空へと駆け上がった

空が割れ 暗闇が顔を出して

星の砂が顔にかかり 目が見えなくなった

 


車は溶け 服は裂け 

もう彼女でしかなくなった時

あの男とは違う永遠に抱かれ

暗闇の奥深くまで飛び続けた

 

 

 

何かの間違いで彼と彼女が再開すれば

きっと最高の夜となるだろう

しかし永遠は引き離すだけで

星の砂は辺りを舞うだけであった