No.386 しっぽが生えた男
彼にはしっぽが生えている
彼はそれが当然であるように思う
男にあって女にないものや
女にあって男にないものと同じように
人間に生まれた彼に しっぽを植え付けた
猿を愛する女は 母親の役目を放り
猿のような男と どこかへと行ってしまった
父親の存在など 彼は知る由もなかった
見世物小屋のオヤジに捕まり
彼は色々な人々に自分のしっぽを見せた
彼を見た人々はケラケラと笑い
彼はそれを賞賛だと信じることにしていた
同じ見世物小屋に居る仲間とは
すぐに仲良くなったが 皆いつの間にか消えた
蛇の舌を持つ女は きっと都会に行ったし
象の皮膚を持つ男は きっと田舎に行った
彼は仲間が居なくなる度
半身をもぎ取られる気分になった
彼のしっぽは力なく落ちて
床掃除をするように引きずってしまった
見世物小屋のオヤジは酒を飲むと
彼にナイフを投げる遊びを楽しんだ
たまに腕や足に突き刺さるが
ケラケラと笑う姿で 彼は嬉しかった
彼が一人きりになる時は
誰からも笑われずに済んだ
しかし彼は 笑われずに済むことよりも
笑われていた方が楽だと知っていた
ある日 その時も 見世物小屋のオヤジは
何杯もウイスキーを飲んでいた
「ナイフを投げる遊びをしよう」と 彼を呼び
彼はいつものように怯えたが 嬉しかった
見世物小屋のオヤジはいつもより少し酔っていて
彼の太ももを狙ったが しっぽに当たってしまった
しっぽが千切れ 残った皮一枚も裂けてしまうと
バスタブ一杯よりも多く血が吹き出た
彼が笑われることはなくなった
しっぽと一緒に 彼はカラカラに乾いた
見世物小屋のオヤジは 稼げなくなった腹いせに
彼のために作られた墓石を 蹴り飛ばして酒を飲んだ