No.519 ハッピーな男
彼はとても幸福だった
いつも小指をぶつけても
ゴミ箱を漁って 二年前の肉を食い
腹を壊して病院へ行き 余計に金がかかっても
午前三時にいつも来る
隣のハゲオヤジの愚痴を聞いていても
電車の中で女に足を踏まれ
痴漢に間違われ 連行されても
刑務所で一番強い奴が 一番弱虫な彼の
胸ぐらを掴んで離さなくても
出所したところで誰が迎えに来るわけでもなく
行く当てがあるわけでもなくても
自分の家に帰って来たと思ったら
知らない誰かが住んでいて 警察を呼ばれても
交番から来た二回り年下の警官に
説教をされ 更には同情され 肩を叩かれても
彼はとても幸福だった
幸福でない瞬間などなかった
彼の腹の中で育った憎悪が
地上を荒らし尽くしていても