No.490 (思い入れのない故郷)

 

 

つまらない人生を送っている人々が

つまらない出来事で騒いでいた

彼はそれをつまらなそうな顔で眺めて

心が冷めていくのを感じていた

 

 

つまらない人生とは何なのだろうか

幸福でないことが つまらないことなのだろうか

彼はそうやって人生を振り返ってみたが

つまらない出来事で騒ぐほど(つまらなくはないな)と思えた

 

 

彼の人生には おそらく幸福というものはなかった

しかし その不運さが 人生の山や谷を自在に作り上げた

彼は人を食い 食われながら育ってきた

これからも そうやって生き続けるのだろう

 

 

宇宙船の談話室に置いてあるコーヒーメーカーから

ドロドロのエスプレッソが飛んで来て

口の中で 噛むたびに弾けて液体になった

それを飲みながら 彼は遠く離れた故郷の古い写真週刊誌を読んでいた

 

 

四百年前には こんなことも面白がったのだろう

つまらない人生を送っている人々が書き

つまらない人生を送っている人々が読み

つまらない人生を誤魔化していたんだろう

 

 

そう思いながら 彼は死んでいったつまらない人々を考えた

人の不幸をエンターテインメントするしかなかったのだろうか?

彼はそのことを一日中考えて ゆったりと仕事をしていた

窓からびっしりと星の輝きが見えたが 彼にはもう興味がなかった