No.479 生まれ変わった彼?

 

 

鏡の中を見つめると 痩せこけた男が一人

彼は最初 自分のものだと気が付かなかった

用意された髭剃りで 無精髭を剃った

鏡の中の男は 少しだけマシに見えた

 


用意された洋服を着ると 更にまともに見えた

街にも溶け込めそうだ 安心して溜息が出た

ふと よぎった記憶の断片を 注意深く確かめると

彼は昨晩 知らない男と話していたとがわかった

 


「人生を変えろ」そう言って去る男の背中を

追うようにして 彼は街に出て歩き続けた

照りつける太陽は彼の頭を焦がして

吹き出す汗を拭うために ハンカチを1枚買った

 


(この財布は誰のものだろう?)

勿論 彼のために用意された財布だった

彼の顔が写った身分証も入っていた

名前は何処にでもいる平凡なものだった

 


それから 彼は普通に暮らした

帽子を被った不気味な連中から襲われ

何度か死にそうになったこと以外は

静かに 穏やかに 生活を成り立たせていった

 


以前の自分が誰かなんてことは

追求するつもりもなかった

ある日は 一人の帽子を被った女を

撃ち殺して そこら辺に埋めた

 


ただ 彼と話した知らない男のことを

彼は何度も思い出して 探してみた

結局知らない男は 知らないままだった

彼は 殺人がある以外 何の変哲もない人生を送った