2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

No.405 チューリップ

咲かせた花はチューリップ 誰かに踏まれて見る影もなく しかし確かに 土の中に在る 風にそよぐことも出来ないが 息をしている 枯れる季節が近付いても 土に埋もれて 寂しくはない ミミズの温もり 他の葉の根のにおい ありきたりな陽気は 背中だけに差し込む …

No.404 走る魚

足が土を掴む 後ろに払われて埃になる 魔法のチョークで書かれたゴールを目指す 彼を釣り上げたのは屈強な腕をした釣り人で 針の先のそいつの口髭を飲み込んでしまった 針はもう腹まで行った 釣り上げた釣り人も 消化液の中で泳いでいる 彼が湖を泳いだよう…

No.403 キュビズム

彼は真昼のビルの上の方を見ていた ビルの上で靴を揃えていた男も彼を見ていた 靴底のそばを通りかかった蟻は彼を見上げた 右のカフェの女も左を過ぎる老婆も彼を見た 真正面から見た男には 彼が鷹に見えた 鋭い瞳の端で手のひらを切り裂かれそうだ 羽根が生…

No.402 彼と彼のバスタオル

砂だらけになってしまった髪を洗う 彼のシャンプーは女物で良い香りがする 夢心地の海辺から戻り 水着はもう脱ぎ捨てた あとは乾いたバスタオルで 乾くまで擦るだけ 潮風が半開きの窓の向こうから漂ってくる 海は広く 水平線は視界を横断する 彼が見上げた空…

No.401 ブラウンバター

押し入れから引っ張り出してきたような ぐちゃぐちゃな歌い方で 彼はぶちまけた鬱憤を音色に乗せて ウイスキー色の部屋で暖を取る ベッドの下の隙間で発酵したパンのような ぐちゃぐちゃな歌い方で 彼はぶちまけた鬱憤を指先に集め コイーバ色の網タイツを破…

No.400 永遠の一瞬 一瞬の永遠

コバルトブルーの爪で引っ掻いたガラスが 透明な破片を青く染めあげる時 彼は耳を塞ぐことも無く ただその爪の持ち主を見つめているだけだった ヒトはあっけなくただの物になった 人間はあっけなくただの器になった 彼の肉を頬張る怪物は 青い破片の中で泳い…

No.399 疾走する恋人たち

危険な恋人たちが 真夜中に疾走する 古いカローラに乗って 二人は失踪する 夜と朝が挟んだ色彩に誘われ 食パンの耳を食べながら アクセルを踏む 自動販売機を見つけ 停車して小銭を入れた 黒い缶を両手で包み 彼は煙草を吸う 彼女は カフェオレの匂いを嗅ぎ…

No.398 気弱なジャックフロスト

氷砂糖を噛み砕いて 金色の髪をかき上げる 寒さは彼を凍えさせはしない 道路に転がった誰かの死体が凍りつく時も 彼は青く透き通った瞳でそれを見つめた 「死ぬことはどんな感じだった?」 彼に見られた魂は 彼の美しい声に止まった 「死ぬのは… ただ死ぬだ…

No.397 きっと気のせい!

身体が痛むのは きっと気のせいだ 寒さもきっと気のせいだ 何故なら 彼はもう麻痺してしまっている 全てが気のせいになってしまっている 黒く沈んだ瞳の中に一人の女を閉じ込めた 彼は彼女を大切には思っている だが 彼の思いは彼女に届くことはなく 檻に閉…

No.396 ラジオな彼!

彼はハガキ職人のペンネームを並べて ラジオDJの憂鬱を解読しようとした レコーダーに入った自分の番組を 自分のためだけに流して お題を考えた ペンネーム:クリストファー 君はどこの国の生まれだ? ペンネーム:ハズレくじ 君は何故当たらなくなった? 彼…

No395 夢見るハリウッド!

キャデラックを夢見るオンボロ車 金を片手に風切る奴ら そんな奴らを横切る彼のことを 知る奴はいない 忘れられることもない 看板を眺めて 野望を抱いても 別に忙しくなるわけじゃない 撮影スタジオの前でコーヒーを飲んでも アクション映画のスターになれる…