No.396 ラジオな彼!

 

 

彼はハガキ職人ペンネームを並べて

ラジオDJの憂鬱を解読しようとした

レコーダーに入った自分の番組を

自分のためだけに流して お題を考えた

 


ペンネーム:クリストファー

君はどこの国の生まれだ?

ペンネーム:ハズレくじ

君は何故当たらなくなった?

 


彼は自分の番組のお題に沿って

考えて考えて 答えをハガキに書いた

ハガキは数十枚になってしまった

ペンネームは数人分 質より量が勝った

 


ペンネーム:シュークリーム

甘くてとろけそうだ

ペンネーム:からし味噌

酒のつまみにどうだ

 


お題は 「最近身に降りかかった不幸」

フィクションはドリフトして そこらに散らかった

ハガキが舞い踊る録音スタジオの中で

6畳と収納の不幸がノンフィクションになった

 


ペンネーム:血みどろ

紙で手を切る阿呆も居るらしい

ペンネーム:月あかり

彼は狼にはなれないだろう

 


彼が解読した彼自身の憂鬱は

片方聞こえなくなったイヤホンだった

買い換える金もないので 不貞腐れ

眠るフリをして ジングルを片耳で聞いた

 


ペンネーム:本物のラジオDJ

彼は思った (あんたの話はどこへゆく)

ペンネーム:夜更かしの代償

彼は感じた (明日はきっと一日眠い)

 


笑っていると 解読した憂鬱が

いつの間にか吹っ飛んでいた

彼は次の日に 自分の番組を消して

本当の人間を 久しぶりに見に行った

 


ペンネーム:白髪染め

下手すりゃカツラも有り得た

ペンネーム:高級カバン

高いものを身に付けて 優越感に浸っていた

 


ペンネーム:青い空

彼は言った「やけに清々しいな」と

ペンネーム:白い雲

彼は言った「隠れてないで出て来い」と

 


ペンネーム:一人旅

ペンネーム:夕暮れ時

ペンネーム:河川敷

ペンネーム:千鳥足

 


家に帰ると 彼はまた録音を始めた

しかしもう 自分の番組を持っていない

仕方が無いので 即興で詩を作った

その日から彼は ラジオDJから詩人になった