2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

No.603 パグとバグ

パグは 窓の外の通りを見下ろした 車が 右と左に横切った 右と左に行った先に何があるのか 気になったが わからないので考えを捨てた パグは 見下ろすのをやめて 馴染んだ部屋の中を見渡した ソファの上に 一匹の小さな虫がいた のそのそと近寄ると 前足で捕…

No.602 シチメンチョウとハイビスカス

煌めく瞬きと フリルのスカート シチメンチョウの羽毛は 気高く跳ねる ハイビスカスは 彼女の頭の上で 羨ましそうに 不貞腐れている 水を飲み過ぎたヒヤシンスが 花瓶の中でもがいていても そこらでたむろするパンジーが 何かわからないことを叫んでいても …

No.601 アナグマとコヨーテ

街は 夜の喧騒を洗い流して すっかり別の顔をして朝を迎えていた 昨日飲み過ぎた木の実ジュースを アナグマは全て吐き出したい気分だった 友人のコヨーテはその横で 呑気にビーフジャーキーを食べた 「昨日はヤケになっていたな」と笑うと アナグマはそっぽ…

No.600 600回分の腕と目

600回分の別れを取り戻すために 彼に出来ることは何もない 誰も気が付かないで 通り過ぎてゆく むしろ それが心地良く感じるほどに 詩を書くために 腕を付けられて 詩を読むために 目を付けられて 必死に書いても 必死に読んでも 彼の生活が 変わることはな…

No.599 ころころ転がる彼!

駅のホームに立つ 彼の行き先は 彼自身にもわからなかった それでも電車を待っている間だけは 周りの空気に溶け出せるような気がした 夕日が差し込んで 彼の足元を照らしている 光に怯えてうずくまる影が 彼の元へ逃げた 彼は足踏みをしながら 影を避けた 電…

No.598 シェイカー!

涸れた喉を潤して 彼は溶けて消えて 水が流れて 吐き出され 掃き溜めの中へ 許されない罪を数え 引き金を探せ 夜は長くて短い ジーンズのポケット スモーキーな街に現を抜かし 出迎えるあいつのニヤケ面 裸の女たちの行進を眺めては 涎を垂らす良い加減な奴…

No.597 黄昏る彼!

不規則に並ぶマッチ棒を 規則正しく変えるよりも 集めて捨ててしまいたくなった 1カートン分の退屈を こんな形で過ごすとは思わなかった 彼はすることを探していた 生きる意味なんてものは初めからなかった 何かをしていれば落ち着くと思った そして大量のマ…

No.596 夜更かしのロマンス

頭の中で響いている言葉 「もしも君が居なくなれば」 彼の嘘で傷付いても 彼女は 笑って許した パズルのピースよりも ネクタイとスーツよりも 革ジャンにスウェット姿の彼が 何よりもぴったりはまっていた 形崩れした憂鬱を 着こなす彼の少し先に ほんのりと…