No.600 600回分の腕と目
600回分の別れを取り戻すために
彼に出来ることは何もない
誰も気が付かないで 通り過ぎてゆく
むしろ それが心地良く感じるほどに
詩を書くために 腕を付けられて
詩を読むために 目を付けられて
必死に書いても 必死に読んでも
彼の生活が 変わることはない
今日は十分に疲れ果て
電車の中のスーツどもと 制服を睨みながら
目的の駅まで待ち続けている
ふくらはぎには 熱風が出続ける
600度の風で 溶けてしまいそうになった
電車も溶けそうで 悲鳴を上げていた
彼の周りの人々も簡単になくなって
スッキリとするのかも知れない
詩を書くために 付けられた腕を取り
詩を読むために 付けられた目を取ると
ドアが開く時に 外に蹴っ飛ばして
くだらないことで 頭の中を満たした
今日は何にも出来なかった
疲れだけがくっきりと彼に痕を残した
目的の駅の手前で ぺしゃんこになりそうだが
彼の生活が 変わることはない
600回分の出会いを取り消すために
彼に出来ることは一つしかない
誰も気が付かない場所で胸を突き刺す
やがて それが当たり前に思うほどに
詩を書くための 腕を失った後でも
詩を読むための 目を失った後でも
彼は書き続け 読み続けている
ふくらはぎは くだらないことばかり言っている
今日はもうそろそろ死んでいく
そのことに心から安堵しながら
目的の駅に着いて 荷物を持ち上げる
彼の生活が 変わることはない