No.599 ころころ転がる彼!

 

 

駅のホームに立つ 彼の行き先は

彼自身にもわからなかった

それでも電車を待っている間だけは

周りの空気に溶け出せるような気がした

 


夕日が差し込んで 彼の足元を照らしている

光に怯えてうずくまる影が 彼の元へ逃げた

彼は足踏みをしながら 影を避けた

電車がやって来て 飛び乗った

 


彼の周りに人が多くなると

無性にさっきまで立っていたホームへと

戻りたくて仕方がなくなって

心細くてたまらなくなって

 


吊り革の軋む音で ズタズタにされて

細切れの一片になった彼は泣きじゃくってみた

ただ 細かくなった方が 紛れ込める

少し安心した彼は もっと小さくなろうとする

 


電車の中で パチンコ玉が転がり

それは乗客の足に当たって 行ったり来たりしている

そのパチンコ玉から彼の姿に戻る頃には

きっと 電車は基地に帰って眠っているだろう