2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

No.287 彼と街

街は穏やかに 黙り込んでいる 食べかけのポテチ 冷たいジャスミンティー 袋の重さで 右手が痺れた彼は 左手に持ち替えながら歩いた 家々の隙間を 曇天の空を 草臥れた陸橋を キャベツ畑の前を 彼は歩いた 時間は止まっていた 何かを動かすには まだ何かが足…

No.285 誰か

(二日酔いのような体調で目覚めた 酒なんて一滴も飲んでいなかった 彼は遠くの街で実家の仕事を継いだ 私は私で何かを始めようとしている 先月は7日間を1000円で過ごした パンの耳に砂糖をかけて食べた 穴の空いた障子から見える景色が やけに浮かれて…

No.284 要らない物

飾ってあった土産物を捨てている時に 彼は鼻歌を歌う 楽しげに ハワイで買ってきた友人は もういない 少なくとも彼にとっては サーフィンをしている少女は笑っている 腐ってきたバナナの皮の上で 友人の笑い顔すら 思い出せないので 何も感じずに 彼は袋を縛…

No.283 独

古びた街並みが 通り過ぎる男を眺めていた 彼は見向きもしない 夢に出てきそうな 奇抜な喫茶店も 現代美術を飾る ギャラリーでさえも 彼の目には止まらない アスファルトばかり見つめている 彼は 呟いていた 聞き寄れない声で何かを 二駅ほど 歩いている間 …