No.284 要らない物
飾ってあった土産物を捨てている時に
彼は鼻歌を歌う 楽しげに
ハワイで買ってきた友人は もういない
少なくとも彼にとっては
サーフィンをしている少女は笑っている
腐ってきたバナナの皮の上で
友人の笑い顔すら 思い出せないので
何も感じずに 彼は袋を縛った
ゴミ捨て場の扉が壊れている
中に放り込んで家の中へ戻る
彼は何を捨てたのか もう忘れている
誰にとっても他人なんてそんなものだ
捨てて捨てられて 物はやがて無くなる
その時に残るものなど大した問題ではない
けれども彼が友人にあげた土産物は
まだ机の上で笑っている それを彼は知らない
知ったところで彼は思い出すことも無く
後悔をすることも無いだろう
氷の中で育った瞳の影が揺らめく
氷が溶けたとしてもその影は消えない