No.460 彼の一番の友人

 

 

悩みが少なそうと言われる彼に

ストレスがどんどん溜まっていった

吐き出せない愚痴を書き込んだノートが

もう天井まで着いてしまいそうだ

 


そのノートを彼の友人が読んでいた

酒を飲みつつ ページをめくり続けた

彼は「そんな物読んでどうするんだ?」と聞いた

友人は「これは面白い 続きが気になる」と答えた

 


彼の愚痴は 彼の頭の中で再構築されて

いつの間にか推理小説のように難解になった

文体は脳から滲み出る麻薬を吸って

狂ってはいるが 破天荒に惹きつけた

 


友人が「これは傑作だよ」と 言った

数週間 彼の家に通って全てのノートを読んだのだ

彼は「まさか」と言って笑ったが

友人に強く勧められ 出版社に送った

 


そんなきっかけで その小説は半年後に出版された

ヴィレッジヴァンガードくらいにしか置かれなかったが

それがそこそこ好評になっていった

友人は「ほら言っただろ」と花を添えながら独り言を言った