No.510 卑しい彼の小さな石
立川駅で少し寂しくなるだろうか
それとも 多く人が乗って来るだろうか
うざったいアナウンスが
電車に響くと 彼はしかめ面をした
要らなかった傘を捨てちまえ
今日の終わりを捨てちまえ
明日の朝を拾い上げても
ろくなことにならないから 捨てちまえ
立川駅に着くと しばらく停車するらしい
待たなければならない人々がいるらしい
それに比べて彼を待つ人はいないし
彼が待っている人もいない
待てるようになれば
彼の貧乏ゆすりに表れている
卑しい本性を隠し通せるようになり
大人しくなれるだろうか
大して人は乗って来ない
これなら置き去りにしても変わらない
彼はイヤホンから流れる
チャカチャカした音楽で苛立ちを紛らわせた
彼がこんなに擦れ切ってしまったのは
おそらく石同士がぶつかって 削れて
砂が出て みるみるうちに小さくなり
卑しい彼を形作ったからだろう
石はおそらく 元は皆同じくらいの大きさで
卑しさも尊さも全てが同じで
そこから砂をかき集めて体に塗るか
砂を出し続けてなくなるか なのだろう
それならば さっさと消え去ってしまい
波に攫われてしまいたいと彼は思った
隣で神経質な奴らが彼を気にしながら
微かに石を撫で付けるだけで 望みは叶わない
彼は頑丈になったわけでもないのに
彼の周りが 彼を思い切り砕き割ることもなく
毎日微妙に 小さくなっていきながら
小さな彼は 死ぬほど長い時間をかけてなくなる