2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

No.351 フェンス

彼は決して フェンスを乗り越えようとしなかった 頭が良すぎるために そうしないことに決めた きっと彼がフェンスを超えて どこに行こうとも 弾丸は追いかけてきて 彼の頭を撃ち抜くだろう それでも 彼はフェンスを乗り越えてみたかった 行き交う人間たちは …

No.350 バリカン

傷だらけの顔や身体に塩を塗る 清めるための痛みに耐える 伸びきって傷んだ髪は彼に張り付き 名残惜しそうに彼を見ている ガリガリと 骨を貪る音に聞こえる 案外 髪を削ぐこと自体は悪くない ただこれに至った経緯と 彼の誇りを思い 彼は自分自身が 哀れに思…

No.349 音楽の酸素ボンベを担ぐ男

ウォークマンから伸びたイヤホン 耳に入れて 人混みをするすると抜ける 彼はその瞬間だけ 優越感を感じる 一人 また一人 遠ざかってゆく 彼が 危なげなく辿り着ける場所なら きっと誰でも行けるところなのだろう 彼が 足をかけようとする連中をすり抜けて 行…

No.348 月と自転車

さめざめと重くなる 雨雲の模様 見下ろして困ったのは 星空の月 自転車を照らすのが 何よりも楽しみで 待ち望んでいたのに 朝になってしまったら ここを通り過ぎてしまう ここを通る あの自転車が良いんだ と月は思った 乗っている人間は 月の方を向いてくれ…

No.347 あなたと「あなた」

全てを捧げたつもりでも 何も与えたものはない だからといってあなたに何を与えられたのだろうと 考えてみても見つからない あなたはいつも 止まったままで生きている アルバムがバラバラな時系列に物語を吹き込む そうして アルバムの中では 言葉が飛び交い…

No.346 絵の具とマグカップと 板になった床

マグカップが割れていた 床には小さな凹みがあった 衝撃がどれほどだったか その凹みを見ればわかった 絵の具はチューブから身体を捻り出して マグカップの破片をゆっくりと時間をかけ 床に塗り込みながら 可哀想なやつだと思い 出来るだけ大きな声で鎮魂歌…

No.345 TATOO

二人のうち どちらかだけが悪かった… …わけではなかったので どちらも責められない 罪は同じように全ての人間にある その質や重さを比べることほど 無駄なことはない しかし どちらが先に始めたのかはわかる 右腕の男だ 彼は印象的な刺青をしていた 右肩から…

気まま日記 9/24

この財布、俺っぽいらしい。 なかなか良い感じじゃないかと思う。 これが俺っぽさなら、とても嬉しい。 ちなみに、俺の趣味にもあってる。 嫁が選んでくれたもの。 大切にするつもりであるが、傷だらけになったらなったで、それも良い。

No.344 靴底

無数の足跡が出来て 踏みつけられた草や 花や 小さな虫が 彼らに平らにされた 彼らもまた 大きなスニーカーの裏を目前にし 自らが平らになっていくことを確かめた スニーカーの裏は 彼らに痕を付けた メーカーのロゴと 波のような模様が 何か意図された刺青…

No.343 咳

風邪を引いたわけでもないのに 彼は 咳が酷く 眠れない夜が続いた 病院に行ってわかったことは 少し疲れているということだけだった 咳をしながら 道草を食う 咳をしながら 矢面に立つ 咳をしながら 欠伸をひとつ 咳をしながら 逆鱗に触れる 彼は嫌われてた…

No.342 ノンシュガー

大好きな砂糖とバターのトーストを コーヒーで流し込んだ男 腹が満たされて いたって快調な顔付き ケロリと忘れた 昨日の惨劇 嘘みたいな光景だった 交通事故を初めて見た 忘れられた粉々のフロントガラスと 血みどろになった塊 惨劇は 噂になっている 電化…

No.341 空回り

走る 転がる ぶつかる 止まる あの日の面影を 探して また走る その男は 一人ぼっち それが必然で 彼は流れ星 何処にも 辿り着けない 夢の中へ そっと忍び足で 潜り込む女は 彼を愛することで 自分を保っている 女の友人は言った 「見合うことは有り得ない」…

気まま日記 9/22

・詩について 詩とは、読者が能動的になるもので、読者を受動的にならせては破綻してしまうものなのではと思う。 ほかの様々な文学と違うことはなんだろうと考えてみることにして、結果、そういう答えが出た。 読者の想像、思考を促して、答えを探させるもの…

No.340 忘れた男

閉めたか 閉めなかったか 彼はそのことだけを考える 朝起きて 歯を磨いて 服を着替え 髪をセットして 玄関へ それから それから 曖昧になった記憶を彼が思い出そうとしていると 前から大きな犬がやって来て ヨダレを垂らしながら彼をじっと見つめている 「カ…

No.339 気付かれない詩

いくら何を言っても届かない 何を書いても響かない そういうものなのだろうと 割り切って詩を書く 鉛筆 シャーペン ボールペン 筆や万年筆 そんなもので書いたところで 何も変わらない 詩は詩である しかし それにこだわる馬鹿どもがいる 誰も興味はない お…

No.338 どいつもこいつもいつも胃痛

キリキリ痛むから 不機嫌になる キリキリ煩いから キレそうになる 薬を履いて捨て 飲み干してゆく それでもキリキリする 縮んで千切れ 遠い昔に出会った 悪い女のような キリキリと痛む胃が 悪びれる様子もない 遠く投げ出したくなる 臭い台詞のように キリ…

No.336 ムシササレ

痛みが走る 男の右腕に虫がいた 平手で潰して しばらく経つと そこが膨れる スノードームほどになると 泡がたつ ぶくぶくと 下から上へ空気が溜まる 空気が半分覆うと 赤い点が生まれる 男は右腕を食い入るように眺める 会社に行けずに 困り果てながら眺める…

No.335 真っ赤なポスト

真っ赤なポストが 目印になった 時間を言えば そこに入っている 深夜なら安全で そばに誰も寄らない 白い粉とか 握りやすい塊とか そんな物を仕込む そんな物を待ちに待って ようやく手に入れる彼らには それぞれの事情があって それぞれが悪い 悪さを測る物…

No.334 螺旋

いつも損ばかりしている男が 得をすることがあれば それは凶兆だ 人は変われるか 変われないかと論争が起きても これだけは言える 結末は変わらない 例えば 絶対に当たる占いがあるとする その占いによれば 今日必ず死ぬらしい 男は数える あと数分の命を そ…

No.333 忘れられた男

かつて 一日に彼を見ない日はない そんな人気者だった彼は 当然のごとく捨てられ 置き去りにされた寂しさから 酒浸りになって この世のあらゆるものから逃げていた 彼は誰かの夢の死骸の上に立っていた 今では 自らの夢を見失って 風船を手放してしまった少…

No.322 鉄に関するいくつかの出来事

右腕をネジで締めて 神経が繋がり 痛みを感じる瞬間が 彼にとっての慰めだ 機械獣どもにくれてやった右腕は 今では便利なナビゲーターになっている 「私の働きで快適ですか?」 女の声は彼に語りかける 右腕に向かって 「まあまあだな 今日は曇りだ」 そう言…

No.321 ブラックコーヒーと紅茶

「真実は 犯人が誰かなんて単純なことじゃない」 ブラックコーヒーが彼の喉を通る 「昔好きだったアニメで 一つだって言ってたけどな」 彼の話を聞く男の喉に 熱い紅茶が通る 「あれはただの子供騙しだ ガキ向けの戯言」 ブラックコーヒーの匂いが彼の鼻から…

No.320 虫歯な男

歯の痛みで彼は目が覚めて ロウソクを付けた 淡い光が 木漏れ日のようだが 顔は渋い 落ち着くために流すのは ピアノだけのアルバム レコードがぶつぶつ途切れる度 歯が軋む 歯医者に言われた 「来週また来てください」 そんなことを彼が守れるはずもなく 「…

No.319 電話に出た男

ひび割れた昨日が 足元に転がる 悪夢から覚めても 憂鬱はおどける 寒がりな心が 気温を無視する 暑がりな身体が 悲鳴を上げている 電柱が傾いて 標識が回転している 電線が吹かれて 風とたわむれる びゅんびゅんという 音にまみれる 電気が 脳天から 降り注…

No.318 走る男

突然の雷と雨に驚いて 駅で呆然と立っている一人の男 彼は傘など家にも置かない性格だが 流石に困り果てて 分厚い雨雲を眺めた 電車は洗われているように 物凄い勢いで水をはじき返していた 彼は 少し屈伸をして 大きく息を吸い 全速力で駆け出して 電車の真…

No.317 彼と猫と鏡

彼が朝起きて 顔を洗い シェービングクリームを塗って 髭を剃る時 窓の外からの陽射しに欠伸をする猫は 鏡の前に行って 鏡の中の猫にひと鳴きする 鏡の中の彼が別人のようになると 猫は決まって驚いた顔をする 餌をボウルに入れて 車の鍵と煙草を持ち ドアを…

No.316 トーキチロー

男の身体から伸びた光が ひとつの星を見つけた その星が 分かれて 片方が 落ちて 男の額に目掛け 光速で進み あっという間に 男の頭はパカッと割れた そこから 有象無象 何やらわからない 不思議な生き物 図鑑には載っていない 誰も見たことの無い生き物 そ…

No.315 竜脚

「もし 巨大な恐竜になれたとしたら 君は人を踏み潰さないと誓えるか?」 彼が言った言葉を繰り返し 雨の音を聞く 午前三時 あの時のことを思い出すのは いつ以来だろうか 首を長くして待っても 再び彼に会うことはなかった そしてこれからも いくら待ち続け…

No.313

男は煙草を吸っていた 世の中に対する違和感を感じながら 彼はどこか遠く 違う星で生まれ どこかで間違えて この醜い地球に来てしまった 全ては幻のように思えた 誰もが同じ顔に見えた 心の中を探り合うために 無数の触手が 彼にまで伸びた 彼は その触手を…

No.312 彼

疑い深い男は素晴らしい景色を見ても それは自らの心持ちで変わってしまう儚いものと言った 信じ易い男は小汚い路地裏を見ても それは自らの目線の高さを合わせれば美しいと言った 今回の主人公(彼はとても主人公に見えない)は そんな二つの景色を見ても …