No.316 トーキチロー

 

 

男の身体から伸びた光が ひとつの星を見つけた

その星が 分かれて 片方が 落ちて

男の額に目掛け 光速で進み

あっという間に 男の頭はパカッと割れた

 


そこから 有象無象 何やらわからない 不思議な生き物

図鑑には載っていない 誰も見たことの無い生き物

そんな数々の生き物が わらわらと うぞうぞと出て来て

男の首から下を餌にして DNAを読み取った

 


みるみるうちに人間になったその生き物たちは

擬態という防御で まずは地球に住み着いた

ただ 生き物たちは勘違いをしていて

その男の顔が人間の顔だと思い 同じ顔がたくさんになった

 


村は騒動になって テレビ局まで来た

人間には意味不明な言語で「ああどうも こんちは」

マイクを食べ出すやつや カメラに額を貼りつけるやつ

それは全部 あの男 トーキチローの顔で繰り広げられた

 


ニュースは飛んでいき 世界中がトーキチローに夢中になった

一体あいつらは誰なのか? 何故同じ顔なのか?

トーキチローたちはがっぽり儲けた マンションを買ってみんなで暮らした

「擬態がこんなに楽しいだなんて トーキチローに感謝だな!」

 


世界中から集まる人を招き 金持ちと写真を撮って一言

そうすれば 遊んで暮らせる金が手に入る

DNAに刻まれていた 貧しく不幸な人生はもうない

トーキチローたちは 人気者で 世界の中心になった

 

 

 

そこまでは良かった そこからが問題だった

目が覚めると ひんやりとした朝靄が肌を撫でた

藤吉郎は 草の上で寝ていた

光はとっくに消えて 代わりに太陽が照らした

 


「ああどうも こんちは」

ちっちちっちと鳴く小鳥に挨拶をして

背中に付いた草をはたいて

彼は あっちの方角へと歩いて行った

 


彼は恥ずかしさに 心臓を掻き毟りたくなった

顔を赤くして向かったあっちの方角で 湖畔を見つけた

深い緑が 深い青が ゆらゆらと揺れる煌めきが

全ては冗談だと話しかけるようで 彼はしばらくそれを眺めた

 


そうして またあっちの方角へと

彼はとぼとぼと歩き出した

傾きかけた太陽が ぼやけた彼の頭に沈み

綺麗なオレンジに燃え上がった

 

愉快でたまらなくなって

彼は炭になるまで笑っていた