No.450 彼と彼の汗の地球!

 

 

貧乏ゆすりをしすぎて

彼の周りの食器が全て割れてしまった

サラダはこぼれて 肉汁はテーブルに染み込み

ナイフとフォークはいつまでもはしゃいでいた

 


待ち望んだ郵便物を開けると

一つ願いを叶える 魔法のものが入っていた

彼はそれを取り出してビニールを剥がすと

光り輝くそれを眺めてニタニタ笑った

 


火の周りで飛ぶ蛾のようになって

貧乏ゆすりは治るどころか激しくなった

興奮を抑えきれない彼から汗が吹き出し

みるみるうちに部屋は水槽の中になった

 


天井まで届きそうな彼の汗の中で

彼は貧乏ゆすりをしながら願いを叶えた

すると 振動はテーブルや椅子だけでなく

下の階に伝わっていった

 


ガラスが割れるとともに

彼の部屋から彼の汗が外にあふれた

貧乏ゆすりはどんどん大きくなってゆく

魔法のものは 彼の願いを叶えて消えた

 


彼の汗が洪水となって

今度は街を水槽にしようとした

地面が割れて 何処かに繋がった

彼の知らない場所まで彼の汗が届いた

 


貧乏ゆすりはどんどん大きくなり

それはやがて地面全体を揺らした

全てが振動し続けて 彼は汗を流し続けた

誰もいなくなった日本は 彼の汗で覆われた

 


それから 彼の汗は海に入り

何処からが汗で 海なのかわからなくなった

津波が世界中で起こって

振動と彼の汗が逃げ惑う全ての生き物を襲った

 


魚たちは彼の汗にやられて

次々に溺れていった

死んだ全てのものは 彼の汗に溶けていった

建物も植物も何もかもが崩れ 溶けていった

 


彼は貧乏ゆすりをやめなかった

たった一つの願いは叶えられた

彼の流した汗から 彼に伝わってきた

完成した 彼と彼の汗だけの世界

 


もう彼しか地球上にいないと

分かった途端に 彼はピタリと止まった

全てが彼の汗に沈んだ

太陽にそれを乾かすことは出来なかった

 


彼は空を見上げて 清々しい顔をした

汗はもう流れることはなかった

彼の汗にぷかぷかと浮かびながら

彼は 死ぬまで空を眺めて過ごした