No.393 風鈴ごっこ
口の中で ガラス玉のような飴を舐める
風に揺られると 風鈴のように音が鳴る
彼の歯は ほとんどが銀で出来ていて
カラランコロロンと鳴り続けている
口をすぼめて 頬を膨らまし 彼は風に揺られる
身体は風鈴の先に付いた紙のように風を受け止め
右へ左へ よろめきながら歩く
飴は ガラス玉のように溶けそうもない
甘い香りが鼻から抜けて
味覚は柑橘でいっぱいになる
そうして彼は 今の季節を忘れて
半袖と半ズボンで 真夜中の雪を歩く
頭がポーっとして
雪が口に入って賑やかになって
彼は微熱を抱えたまま
歩く方向を変え 口の中で演奏する
風鈴のような頬の膨らみが
萎んでしまうと 彼は立ち止まる
口の中の液体になった飴と雪を
ゴクリと飲むと また歩き始める
昼になり 駄菓子屋で飴を買う
特大のやつを 相当な甘さのやつを
雪が止み 太陽が出ても まだ寒い
彼は風鈴ごっこをして 冬を越えるまで歩く