No.385 映画を見た男?

 

 

真っ暗だから 彼は眠くなる

真っ白なスクリーンに 映し出された

大きな女の 顔のそばかす

気になることは もう何もない

 


彼は映画を 最後まで見れない

音は心地良い 破裂する爆弾の子守唄

映写室には フィルムのケーキを

平らげている 老人が一人きり

 


彼の目が覚めると 次のシーンに移り

レイトショーの金額分の 眼差しで見つめられ

絨毯の生地のような椅子にしがみ付いて

どこかへ飛んで行った睡魔を探す

 


パンフレットには 歪な人間たちと

正常な犬と 混乱している猫

銃の種類は 彼にはわからなかったが

良く見てみると モデルガンだった

 


スクリーンが 風に靡いて

もっと歪んでゆく 人間たちの顔

正常な犬は ワンと吠えている

混乱している猫は 自分の尾を追いかける

 


彼はいつの間にか寝ていた

いつものように突然明るくなる映画館で

客席から立ち 後ろの映写室を見ると

フィルムに巻かれて 老人は死んでいた

 


彼はいつの間にか外にいた

いつものようにポップコーンを抱えて

客席に置き忘れたパンフレットのことも

映画の内容も 老人の死体も なかったことになった