No.398 気弱なジャックフロスト

 

 

氷砂糖を噛み砕いて 金色の髪をかき上げる

寒さは彼を凍えさせはしない

道路に転がった誰かの死体が凍りつく時も

彼は青く透き通った瞳でそれを見つめた

 


「死ぬことはどんな感じだった?」

彼に見られた魂は 彼の美しい声に止まった

「死ぬのは… ただ死ぬだけだった」

魂はそう言うと 雲の隙間から空に昇った

 


彼は死体を見つめた 青い瞳が凍るほどに

ポケットにしまっておいた氷砂糖を口に入れ

数回 舌で転がした後に歩き始めた

死体は 放って置かれたままだった

 


氷砂糖を噛み砕いて 金髪の髪をまとめて縛る

アゴムの代わりにそこらの根っこを使った

彼は魂との会話を思い出して 春を思った

暖かて 気怠くて 忌々しい春のこと

 


春は 彼にとって死であった

死ぬことは 恐れるべきかも知れないと思ったが

死体になった誰かたちの言葉は拍子抜けだ

全員が 「ただ死ぬだけだった」と答えた

 


彼は凍った湖を眺めた 透き通る青い瞳で

湖と同じように 瞳は太陽の光を揺らした

それから 彼は自分の涙を頬に感じて 戸惑った

湖のそばにあるベンチに座って 泣いた

 


氷砂糖を噛み砕いて 金色の髪を解いて指を通す

その長さは 彼が女であるように思わせた

ベンチに張り付く身体を 持ち上げようともせず

彼は春になり 溶けてしまうまで そこに居た