No.361 喪家

 

 

強く吹く風に飛ばされていく紙切れ

宛もなく彷徨っているような通行人

暗く沈んだ瞳の中に獣が隠れている

それから 彼は髪を切りたいと思った

 


冷たくなってきた空気から身を守るために

ダンボールでスーツを作ってみたくなったり

それよりも前髪が伸び過ぎて食べてしまうので

結んでしまおうかと紐を探してみたりする

 


彼が儚げな声で他人を呼ぶ時 誰も振り返らず

朝も夜もないような暮らしの中で 空腹になる

腐ったパンを拾って 食べて腹を壊したり

池に顔を突っ込んで 飲み干そうとしてみたりする

 


まだ青い蜜柑をもぎ取って食おうとしたら

野犬が彼の足に噛み付いたので ぶん投げた

蜜柑は野犬の眉間で破裂して そいつは悲痛に鳴いた

動かなくなった野犬を 焼いて食べようとしてみたりする

 


疑いようもなく 彼には金がなかった

汚れた服など気にかけることも出来なかった

ただ それよりも 何よりも 彼は髪が切りたかった

前髪を食い過ぎて もうそろそろ空腹を忘れそうだ