No.360 押し入れ!

 

 

引き戸を閉めて 暗闇の中

押し入って 息を潜めている

孤独は 彼を追い込んで

未来という場所から 彼を付け狙っている

 


引き戸を開けて 電球の下

押し出され 眩しさにやられ

頭痛は 彼を問い詰めて

脳髄という檻で 別れの手紙を書いている

 


引き戸を閉めて 沈黙の中

押し入って 隣に座っている

憂鬱は 彼を責め立てて

悲しみという布で 彼を温めるために抱く

 


引き戸を開けて 箪笥の下

押し出され 虫けらを踏んで

血液は 彼を巡り続けて

嫌悪という名前で 緑色の充血をしている

 


引き戸を閉めて 鼓動の音

押し入って 涙を流している

振動は 彼を脅していて

刃物という手段で 手を差し伸べて微笑む

 


引き戸を開けて 小鳥の声

押し出され 空を見上げると

幸福は 彼を手招きして

高所という物件を 取り留めもなく勧める

 


引き戸を閉めて 咀嚼の音

押し入って 腹を撫でている

俗物は 彼を食い殺して

再生という気休めを 免許のように与える

 


引き戸を開けて 子供の声

押し出され 影を追いかける

寿命は 彼を追い越して

過去という場所から 彼を映し出している