No.359 沸騰

 


スニーカーの紐が解けていた

彼はそれに気付かずに走っていた

血だらけの膝はじんじんと痛み

その痛みで また転けて 傷付いた

 


紐が見えない彼は 何処かへ急いでいた

何かから逃げているようだし 追っているようでもあった

「さて 頭の悪い彼のことだから

    もう一度転ばないか賭けをしてみないか?」

 


彼を車の中から監視していた刑事たちが言った

たちまち 彼のおかげで先輩は儲けた

彼がまた転ぶことなどわかりきっているのに

今度こそはと思いながら 後輩は負け続けた

 


八つ当たりをするために

紐が解けたままの彼を睨み

車から降りた後輩は

全速力で彼を追いかけた

 


しかし なかなか追い付けずに

結局見失ってしまった

沸騰した後輩は 先輩に殴りかかり

先輩は反射的に 後輩を撃ってしまった

 


そして 先輩も沸騰してしまって

自分の頭に引き金を引いた

それを 靴紐を結ばない彼が遠くから見ていた

彼は大笑いし 笑い過ぎて沸騰して 倒れた

 


体温がマグマを超えると

彼はもう助からないだろうと思った

膝はもう痛みを感じないので心地よくもあった

やかんのようにぴーぴー鳴きながら 彼は過ごした

 


気が付くと 彼は冷めきっていた

何時間も眠っていたらしく あたりは真っ暗だった

彼はまた 靴紐を結ばずに走り始めた

膝は相変わらず痛いので また沸騰したいと彼は思った