No.486 虫と戦った男!

 

 

顔の前で円を描く虫に気を取られて

彼はその向こうにある危機に気が付かなかった

猛スピードで突っ込んできたボールを

彼は鼻の頭に思い切り受けてしまった

 


そのボールは パチンコの玉より少し大きい

そのボールは 鉄よりも鋭くて 冷たくて 硬い

そのボールは 彼に投げられた物ではない

そのボールは 虫のせいで歪んだ時空から来た

 


その時空は 虫の強力な遠心力で常に歪んで

彼の鼻の頭に 未だにボールをめり込ませている

彼はその痛みに耐えかね のたうち回ったが

痛みは分散するどころか 集中してゆく

 


必死になって両手で ばちんばちん と

叩いて虫を殺そうとしても 円を描き続けている

虫を目で追い過ぎて 彼の黒目も円を描き始め

鼻の頭のボールと同じ物が別の時空から現れる

 


彼の黒目から放たれたボールは

円を描き続けていた虫に当たって

そこら中に体液を撒き散らしながら

虫は静まり返って 彼は痛みを感じなくなる