No.461 エメラルド・グリーンの空洞

 

 

一人の男が森を走っていた

森は暗く 冷たい空気を発して

彼の肺を押し潰そうとしていた

必死になって抵抗するが 足がもつれた

 


大きく浮き出た木の根に顔面を打ち

彼は痛みでのたうち回った

木の根は彼に激怒して 身体を包み

地面の中に引きずり込もうと 蠢いた

 


蛇のように唸る木の根は何重にも絡まり

擦れ合う度に ゴズリ ゴズリ と音を立てた

彼は目を見開き 森を走っていた時よりも

何倍も恐怖に怯えて 泣きべそをかいていた

 


枯れ葉や土が口に入ると 咳が止まらなくなった

味から伝わる腐敗臭は鼻を暴力的に突き刺した

彼の頭の天辺まで 地面に埋れてしまうと

その上を覆い隠すように 木の根は地面を這った

 


彼は暗闇の中にいた

永遠にこのままだと感じていた

息は全く出来なかった

しかし 彼は足元に違和感を感じた

 


土の中を沈んでゆくと 大きな空洞があった

彼は5メートルほどの高さからそこへ落ちた

両足を骨折してしまったが 痛みは感じなかった

周りに広がる エメラルドグリーンに目を奪われたからだ

 


それは何層にもなった何かの結晶だった

触れてみると そこだけ淡く光った

彼は不思議な感覚に包まれていった

眠くなり 瞳を閉じ 夢を見た

 


美しい女性が こちらに向かって微笑んでいる

長いエメラルドグリーンの髪を風になびかせ

少しずつ彼の方へ歩いて来る そして…

彼が空洞に落ちた方向から砂が落ち 目が覚めた

 


目に入った砂を擦り落とし 涙目を落ち着かせると

ぼやけた視界がだんだんとはっきりとした

そして彼は 大きくて凶暴そうな角を見た

その姿はエメラルドグリーンの結晶で照らされていた

 


その光景が 彼が最期に見たものだった

大きな角を生やした 美しい少女は

お弁当が付いた顔をそのままに

木の根に礼を言おうと 上に駆け上がって行った