No.347 あなたと「あなた」

 

 

全てを捧げたつもりでも

何も与えたものはない

だからといってあなたに何を与えられたのだろうと

考えてみても見つからない

 

 

あなたはいつも 止まったままで生きている

アルバムがバラバラな時系列に物語を吹き込む

そうして アルバムの中では 言葉が飛び交い

訳の分からない冗談を言って 幸せそうに笑っているだけ

 

 

あなたの話を聞いて 幸せそうに笑えたなら

きっと 美しい思い出は 美しい人生に変わる

それでも あなたは 何も与えない

深い悲しみと 果てしない絶望があるだけだ

 

 

もしあなたが そんな「あなた」になるくらいなら

元から生まれて来なければ良かった

もし「あなた」に あなたがなれないのなら

生まれる意味は やっぱりないのかもしれない

 

 

死んでも あなたはどこかにいるのだろう

こんなにも「あなた」は アルバムの中にある

ならば本当のあなたも 何処かに飛んでいき

此処とは違う何処かに居るのだろう

 

 

宇宙は永遠に広がっていると聞いた

時間の概念もなくなると聞いた

果てしない絶望があるように 果てしないものだと

そして 全ては無に還ると聞いた

 

 

ならば あなたはどこかにいるのだろう

生きているあいだには 辿り着けない場所に

「あなた」は作り物でしかないのなら

あなたは 何故生きてしまったのだろう

 

 

さて この詩は どうして書かなければならないか

少し考えてみようじゃないか

誰でも誰かのあなたになり「あなた」になる

もしそうなれないのだとしたら

 

 

そう考えると 誰かのあなたに もしくは「あなた」に

誰もがなりたいのではないだろうか

生まれて来なければみんな幸せだったのかも知れない

誰かに知られなければ 生きていないも同然だからだ

 

 

だから 死んだ後は 限りなく広がる宇宙に行って

全てを包み込む光に 罪を忘れるように諭され

一が広がり 無限になり やがてゼロになる場所が

あるのではないかと思わせる

 

 

あなたは もしくは「あなた」は

今どこにいるのだろう

喪失からでしか見つけられないのであれば

なんて惨めなのだろう