No.371 想像写真

 

 

モノクロの笑顔は皺が綺麗に刻まれる

カラーの思い出は 色褪せることは無い

でもどうだろうか その写真を見る男は

写真に写る老人の名を知らない

 


勝手にモノクロの皺を眺め

勝手に幸せだったろう日々を想像するだけ

それは世界で一番無駄な行為で

例え老人と知り合いでも それほど意味はない

 


「写真は写真である 写真に物語を作るな」

事実から飛躍した瞬間 写真はそれよりも劣る

想像の方が遥かに強く 残酷に現実を殺す

ズタズタに 見る影もないほどに 細かく刻む

 


ただ 老人の写真を見ていた男を想像し

この詩を書いている彼もまた 

無駄な時間を過ごして 無駄な文章を並べる

意味のないことをやるべきだとでも言うように

 


写真も 被写体も 文章も 文字も

無駄が多い方が 現実を細かく刻む時に

囁く時間が多いのかもしれない

別れの挨拶をしながら 現実を殺し続けるのだ

 


写真を見る男も その男の文章を書く男も

誰もこの世にはいない 全てが狭い脳の中

それでも広い脳の奥 全ての扉が開く時

きっと無駄なものは 輝きを取り戻すのだろう