No.372 キャリーバッグの男
詰め込み過ぎた荷物で惑星くらいの重さになる
夢を詰め忘れてしまった高身長の男
眉毛が釣り上がり 唇は薄く 瞳は青く 大きい
垂れた目尻は憂いと期待を含んでいる
彼が改札を通り 東京駅を降りる時
誰かの引き止める声がしなかったら
惑星を運ぶ彼のキーホルダーは
暗くしみったれた落し物保管庫に行っただろう
言葉がわからなくても 目標はわかる
一目見れば高さで首が痛くなるほどの建物
そこに入って 彼は惑星とエレベーターに乗る
惑星は エレベーターの中でミシミシと言う
ガラス張りの部屋の向こう 不機嫌な日本人が
彼を見ると 上機嫌に手を擦り始めた
サアサアサアと席に座らされ 彼は作り笑いをした
(この日本人は好きになれないな) と思った
彼は 惑星を開けて日本人の方へと向けてやった
重さで 木の机は凹んでしまいそうにしなった
日本人は嬉しそうに 惑星の中身を吟味し
満面の笑顔で握手を彼に求めたが 彼は断った
あれだけ喜んでいたのに
買っていったのは惑星の300000分の1だった
それほど重さは変わらないままの
惑星を引きずって 彼は別の場所へ向かった
日本人は嘘つきな上にケチである
彼は(もう日本映画は見たくない)と思った
話の通じない女が腕を掴んできたので
肘で顔を押しのけたりしながら歩いた
次の目標まで行く道中 彼は饅頭を食べた
あんこの美味しさで日本人への評価は上がったが
惑星は思ったよりも減ることはなく
腕が千切れる思いをしたことを後悔した
豪華なホテルでさえ 彼は落ち着かなかった
惑星は1494号室のソファでミシミシ言っていた
ふと その惑星を開いて 中身を見た
惑星は相変わらず 凄まじく最高な代物だった