No.470 「彼」
___酔い潰れた後の街並みは彼に優しかった
ぐわんと揺れている光は道標になった
彼の手を引く女が どこの店へ連れて行こうが
彼には記憶は残らない 財布の中も同じく
次の日にパソコンの前に座っていると
二日酔いのせいか画面が何重にも見えた
彼が「早退する」と言うと「二度と来なくて良い」と言われ
清々しい気持ちで また酒を買いに行く
二日酔いは酒のおかげで軽くなった
パチンコ屋の前で知り合いにあって店へ行った
財布の中身は銀行から吐き出された金で満たされていた
彼は知り合いに「祝酒だ」と言ってその店の代金を払った
彼の銀行にあった貯金さえもなくなってしまうまで
酒を飲み続けたいと思ったのは少し驚きだった___
そんな「彼」はどこにもいないが 似たような奴を見かけた
男はそいつを「彼」として膨らませ 筆を取り文章を書いた
男が文章を書き終えると「彼」は消えた
それを読んだ女は「彼はどこへ消えたの?」と聞いた
男は何も答えることなく 寝室へと向かった
その日二人がセックスすることはなかった