No.469 彼はゼリー!
ゼリー状の彼は いつも羨んでいた
形の崩れない焼き菓子のような奴らを
掬われた半身が 誰かに食べられて
「何もかもお仕舞いだ」と喚いている
彼は扇風機の前で 自分の声を揺らしてみた
声は彼よりも固まるのが早かった
カーテンの前に落ちた その声を拾い上げて
掬われた半身の代わりにはめ込んでみた
焼き菓子のような奴らが彼の背中を指差して
「ああはなりたくない」と言った
ゼリー状の彼は その指を噛み千切って
郵便ポストの中に閉じ込めてしまいたいと思った
その夜 ベッドの上で彼は完全に溶けてしまった
ベッドは彼を吸い込んで 少し柔らかくなった
彼の知人がそのベッドを不用品だと思って
持ち帰って寝てみると 妙に寝心地が良かった