No.468 紫色の薬の男!

 

 

彼は婆ちゃんに言われて 紅茶を入れていた

紫色の薬を 花柄のカップにだけ入れて

苦しそうに咳をする 婆ちゃんは紅茶を飲んで

「いつもありがとうね」と言って西部劇を観ていた

 

 

彼は爺ちゃんに言われて 鉄砲を磨いていた

紫色の薬を 汚くなったタオルに付けて

目が悪くなってきた 爺ちゃんはポッケを探り

「いつもありがとうな」と言って小銭をくれた

 

 

彼は路地裏に倒れた 汚いコートの男に

紫色の薬を せがまれて仕方なくやった

苦しそうにしていた 男は薬を噛んで

「今晩は良い夜だよな」と言って夜空を眺めた

 

 

彼は酒屋のテーブルの 向こう側にいる女に

紫色の薬を 入れたカクテルを奢った

目蓋が重くなってきた 女は彼に擦り寄り

「今晩泊めてくれる?」と言って一緒に眠った

 

 

彼は次の朝になって 女がいないと気付いた

紫色の薬を フィルムケースごと盗まれた

気が遠くなってきた 彼は女を恨んだ

「あれがねえと死んじまう」と言って今度は一人で眠った