No.426 闇夜に溶け出して

 

 

二人はベッドの中で汗を拭った

脱いだTシャツが汗を吸い込み 部屋に充満した空気をより一層深めた

彼は彼女に言った

「もし良かったら明日の夜 またここへ来てくれ」

 

 

彼女は朝になると出て行った

彼は眠ったままだった

昼過ぎに起きた彼は 一人 残されたベッドの中で

昨日のセックスを思い出しながら 天井を眺めていた

 

 

彼女はスーツに着替えて職場にいた

上司は彼女のことを気に入っており 仕事終わりに食事に誘った

彼のことを思い出さなかったわけではないが

満更でもなかった彼女はその誘いに乗り 上司の家に泊まった

 

 

誰もいない いつもは家族団欒のテーブル

それに捕まり 彼女は背後から上司の欲望を受け入れた

彼よりも素晴らしい そう思ってしまう罪悪感で

彼女はより一層 自らの欲望に溺れた

 

 

彼はその頃 彼女が来るのではないかと期待しつつ

来ないだろうと目処がついたあたりで 一人の女を呼んだ

人妻だが いつでも暇な女だ

彼は彼女の姿を重ねながら その女を抱いた

 

 

女は彼のことを優しく包み込んだ

寂しそうな目はお互いの心を癒した

昨晩彼女と過ごしたベットの中で

女は彼の尊厳を取り戻すように喘いでいた

 

 

闇夜に溶け出して

二人の欲望は行き着く先を知らずに

永遠とも瞬間とも思えるような時間を過ごし

そして 彼女はオーガズムに達し 彼は射精した

 

 

それから数日後

彼と彼女は 繁華街にあるラブホテルにいた

しかし 何度も試したが彼は勃たなかった

二人はセックスを諦めて 裸のまま語り合うことにした

 

 

隣の部屋から悲鳴のような喘ぎ声が聞こえた

二人はおかしくなって 笑った

その瞬間 幸福を感じて

彼女はポツリポツリと 小さく 語り始めた

 

 

「あなたの部屋に泊まった次の日 上司とセックスしたよ」

彼女は上司との情事を思い出しながら恍惚の表情をした

「あなたより 全然気持ち良かった」

彼は笑いながら「それは良かったね」と言った

 

 

「実は俺も 次の日に違う女と寝たんだ」

彼女は「どうだった?」と聞いた

「君よりも優しかったよ」

彼は彼女が少しだけ寂しい顔をしたような気がした

 

 

彼が女とのセックスを脳内で上映していると

彼の性器は役割を思い出した

上司のおかげで挿入はしやすかった

彼と彼女は 今までにないほど続けてセックスをした

 

 

闇夜に溶け出して

二人はネオンの光と共に繁華街に埋もれてゆく

隣の部屋からの喘ぎ声は もう聞こえることはない

そして 彼女はオーガズムに達し 彼は射精した