No.549 不死身な彼の話

 

 

誰にも教えちゃいけねえと言われたが

言いたくてたまらない話を聞いたんだ

誰にも言わないと約束だけすれば良い

それを破ったかどうかなんて 気にしなければ良い

 


彼はサングラスを付けていた

そりゃあ高そうな服を着ていたらしい

しかし 吹き溜りの酒場に酒を飲みに来たのはマズかった

金持ちは プールサイドのデッキチェアで酔っ払えば良かったのによ

 


彼は 大柄な男二人に襲われた

一人は長髪で 一人は丸坊主

腕は丸太みたいに太くて

顔面を殴る音なんて 鉄を叩くようだった

 


しかし 彼は平然としていた

腕を掴まれて 丸坊主の方に宙ぶらりんにされてよ

長髪が何発も何発も殴りつけているのに

血も出ず 弱音の一言だって言わなかった

 


サングラスはもうぐちゃぐちゃで

高そうな服にも至る所にシミが出来た

彼はサンドバッグよりも殴られた後

「それで 君たちはいくら欲しいんだ?」と聞きやがった

 


お前もそう思うだろ! 嘘みたいな光景だったらしいぜ

ヒョロヒョロの男が 見るからに野菜しか食べないような男が

屈強な男二人がかりでも 傷つけることすら出来なかったんだ

しかし 驚くのはまだ早い

 


(ポケットから小銭を取り出して

 近所の酒を買いに行った

 初めは強盗に間違えられたが

 不思議なことに 今日は小銭が多く入っていた)

 


さっきの大柄の二人が「ふざけんじゃねえ!」と

物凄い剣幕で怒鳴った!

縮み上がるどころか 彼は不適に笑い返して

「虚勢を張るな ウスノロ」と言いやがった!

 


そこで二丁のピストルが登場した

撃鉄を起こして 引き金を引いた

彼はまともに二発 胸に食らったが

倒れもしないので 撃った奴らは驚いていた

 


彼は 少しボロボロになった服のまま

男二人に金をやり

「今日はこれで飲め」と言って

店を出て行きやがった

 


少しの間店には沈黙が流れたが

すぐに歓声が沸き起こった

何故かその中心には 彼を撃った二人も居てよ

皆に酒を奢ってやがったらしい

 


え? 何だって?

その話を誰に口止めされた?

そんなもん されてるわけないだろ

「教えちゃいけない」と言った方が 話は最後まで聞くからな

 


まあ この話が本当か嘘かはどうでも良い

今日の夜 数分潰せただけマシじゃねえか

まだまだ長いんだからよ

ところでどうだ? この酒美味いだろ?