No.531 五人の暇な男!

 

 

ワンは長い髪を後ろに束ね

東京駅で迷っていた

初めての場所 戸惑うことばかり

「くそったれ どうしてこんなに暑いんだ!」

 


トゥーは短い髪をタオルで拭いて

汗を吸い取ったそれをゴミ箱に捨てた

その様子を見ていたババアが 不愉快そうだった

「何見てんだ? タオルだって燃えるだろ?」

 


スリイは中途半端な髪を染めて

金色になったところを オールバックにした

仕事が始まるのが楽しみでならない

「早く アイツらと会いてえなあ!」

 


フォウはベタつく髪を洗い

ドライヤーで乾かして

またベタつく 硬めのワックスを付けた

「気合いだけは負けられねえな!」

 


ファイヴは決まった髪を車のミラーで更に整えながら

煙草をバカバカと吸っていた

路上喫煙禁止区域の文字は読めなかった

「もうちょっと待て! まだ発進するな!」

 


彼らはそれぞれ違う時間帯に出発した

久々に五人で揃い 大きな仕事を片付ける予定だった

それぞれ違う方法で待ち合わせ時間まで暇を潰した

フォウは ゴジラの居る映画館で映画を二本も観た

 


五人は新宿の煙草が吸える喫茶店に入った

待ち合わせ時間は夕方の五時半だった

酒を飲める者がいなかったので

砂糖を多めに入れたエスプレッソを飲んだ

 


「お前ら 相変わらず冴えねえな! 」

ワンが言うと トゥーは「お前こそ」と答えた

スリイが「俺 髪染めたんだ!」と自慢すると

フォウは「更にバカっぽくなってやがる!」と笑った

 


ファイブが「まあ 積もる話もあるが…」と言いかけると

ワンが「お前 いつも本題に入るのが早いよな!」と茶化した

トゥーとスリーが大笑いしながら手を叩いた

フォーは一人だけ ナポリタンを食べていた

 


ファイブは真面目な顔をしたまま

「いや こういった話はいくら時間があってもだな…」

と言いかけ

今度は自ら口を噤んだ

 


(殺気…) それまでの彼らの笑顔は消えた

五人は同時に身構えた

店内に入って来た大柄の男たちは計十人だった

彼らの退路を断つように 計算された配置に座った

 


目配せをした ワンはトゥーに

トゥーはスリーに スリーはフォーに

フォーはファイブに こういった経験は

過去に 一度や二度では済まなかった

 


十人の男たちが一斉にピストルを構えると

ワンはテーブルを蹴り上げた

テーブルの下に置いてあった鞄からピストルを取り

トゥーは右のカウンターに居た三人を撃った

 


銃弾は三人の脳天に直撃して

その奥にいた若い女の店員は悲鳴を上げた

トゥーの後ろでピストルを構えた二人を

スリイは見事に撃ち殺した

 


後ろにかけてあった絵に穴が空き

フォーはそれを見ながら 店の入り口に居た

油断をして手間取っていた三人を撃ち殺した

硝子のドアには三発分の穴が空いた

 


ファイブは店内の奥に陣取って

身を隠していた二人に近付こうとした

二人のうち一人が立ち上がり

そこら中に乱射して 周りの客が巻き込まれた

 


呻き声と絶叫と硝煙とコーヒーの香り

ファイブは突っ立ったまま落ち着いていた

乱射した一人を撃つと

もう一人が立ち そいつも一発で仕留めた

 


ワンが蹴り上げたテーブルが落ちて来たが

乱射の際に粉々になってしまっていた

ナポリタンなど見る影もなかった

それでも 五人の立ち振る舞いは 何処か美しかった

 


客が逃げたり茫然としたり助けを求めたり

店員がパニックを起こしていたり

店長が怯えながらも彼らを警戒しながら

通報しようと電話をかける間

 


テーブルのなくなったソファに座り

五人はお互いの煙草に火を付け合った

深々と吸い込み 大量の煙を作り出した

まるで煙幕のようで 店内は見通しが悪くなった

 


店長が警察に 動揺を押し殺して状況を伝える間に

五人は煙草を吸い終えて 店の外へ出て行った

不思議なことに 出てしまえば普段通りの

雑多な物が溢れる ただの街並みだった

 


そこから徒歩で代々木方面へと向かい

そのまま明治神宮を通って原宿へと向かった

当然のように 煙草を吸いながら歩いたが

誰も彼らに注意することが出来なかった

 


聞き馴染みのある言語を話す観光客に

「この先を曲がると竹下通りにも行ける」と教わると

はしゃぎながら 五人は歩き続け

ビルの中に入ると ショッピングを楽しんだ

 


ワンは「もう仕事はないな」と呟く

トゥーは「そうだな」と返す

スリイは残念そうに「楽しみだったのに」とため息を吐き

フォーは肩を抱き寄せながら「命があるだけマシさ」と慰めた

 


ファイブは「諦めるな 仕事はまだ続行出来るはず…」と言いかけ

ワンに無言で その先を言わないように促された

五人の周りには 警察官が沢山居た

ビルの中は 最早警察署の中に居るも同然だった

 


警戒する警察官たちに トゥーは

「先に撃ったのはあいつらだぜ?」と言ったが

警察官にその言葉が伝わるわけもなく

スリイが「終わったな」と諦めた

 


フォーは警察官に誘導されて

店外へ避難する客を見ていた

ファイブは今回の仕事のことを考えて

どうにか突破することを考えていた

 


彼らに 何十丁ものピストルが向けられた

彼らは 両手を上に上げた

ワンが足元に蹴り上げる物がないか確かめると

タピオカが残ったコップがあった

 


ワンが蹴り上げると 彼らは一斉に射撃をした

トゥーは警官二人の腕を

スリイは警官三人の足を

フォーは警官四人の頭を

 


ファイブは その光景を眺めつつ

弾を込め忘れたピストルに弾を込めて

息を整えながら 悔しさを感じながら

警官五人の腹部を撃った

 


そして 彼らに何十発の弾が撃たれ続けたが

五人はその場から一歩も動くことはなく

タピオカの残ったコップが落ちて来ると 

示し合わせたかのように 一斉に倒れた

 


彼らの身分証を見て

彼らがこの国の者でないことに気が付くと

警官の中でも 最も偉そうな奴は

ほっと一安心して 事件現場の処理を進めた

 


ワンは 死んだ後の世界があると思っていなかった

トゥーに「スリイはいるか?」と尋ね

フォーは「ああ 皆一緒だ」と答え

ファイブが 「それじゃあ 仕事の話をしようか」と言った

 


他の四人は頷くと 一斉に笑った

阿呆らしかったが 仕事の話は真剣にした

練り上げた計画で 少なくとも十億は稼げる

浮遊しながら煙草を吸い 使い道を考えた

 


代々木公園へと飛んで行くと

意外にも 死後に残留している者が多いことに驚いた

彼らは 煙草の煙をそいつらに吹きかけてみたが

段ボールの上で眠ったまま 反応しなかった

 


こうなってしまえば

障害物がないため 仕事は簡単に進んだ

金庫は素通り出来たし

五人同時の侵入でもバレなかった

 


しかし 十億分の金は

幾ら頑張っても掴めなかった

そこで 彼らは暇つぶしをすることにした

五人それぞれの 自由気ままな 永遠に続く 壮大な暇つぶしを