No.563 実体のない男
薄い膜だけの彼は笑っている
皮膚はもう無くなり 中身もない
浮かんでいる様は 異様な巨大シャボン玉のよう
彼に笑いかけられた少年たちは逃げて行った
少年たちを追いかけて
風を上手いこと味方にしつつ
スピードを上げて突撃するが
ぶつかっても跳ね返るだけだった
ある日 一人の勇気のある少年がその場に残った
その少年は 彼に話しかけてきた
彼は 何も言えないまま笑い返すだけだが
少年は 彼のことを少しだけ気に入った
それから彼は 少年と行動を共にした
家に帰るまでの間は 色々なところに連れて行かれた
彼と少年を見た少年の友人たちは
その気味の悪さに友人をやめていった
それから 少年の周りのものが
示し合わせたように 関わりを絶っていった
学校へ行っても名前は呼ばれず
家へ帰っても彼の夕食はなかった
それから 少年は外で過ごすようになった
彼と一緒ならば 怖くない気がした
彼は 少年に笑いかけながら
少年が 自分のようになるのを心待ちにしていた