No.488 青い顔の男!

 

 

二重の線に沿って 彼は線を引いた

青い意志の現れで 耳まで繋がった

そして鼻から髭のように顎まで伸びた

線は 彼を切り刻むように 彼によって描かれた

 


彼は赤い線を引いた男に敵対心を抱いていた

奴らはそこら中にいる 青い線の男は少ない

彼は 青い線の男の中でも 突出して強かった

意志の堅さが どんな金属よりも硬かった

 


拳を握りしめ 描き終わった顔を鏡に映した

これでもう文句はないだろう と彼は思った

スーツに着替えて 革靴を履いた

赤い線の男は 彼が扉を開いた先に すでに居た

 


「相変わらず準備が遅えな 女じゃあるまいし」

赤い線の引いた男は いつも笑顔だ

彼にとってその男は おそらく「友人」だった

しかし 彼は認めない 赤い意志を持つからだ

 


彼は「先に行ってりゃ良いだろう」とだけ言い

社会人になってから勤めている会社へと行く

「今のお前があるのは俺のおかげだ」という

赤い線の男の話を 彼は何千回も聞いた

 


その日 彼はコピー機の前でコーヒーを溢した

コピー用紙が全てだめになり 買いに行った

彼を見て 皆ため息を吐きながら 赤い線を掻いた

「あいつはもう 置いとけねえな」支配者が言った

 


その日 彼が赤い線の男だらけの会社を辞めた

辞めさせられた とは死んでも思いたくなかった

彼は 彼の同志である「青い意志」を集めた

集まったのは五人 その時全員無職だった

 


彼は「今夜こそ 奴らに仕返ししてやる」と言った

他の四人は黙って 肯いてばかりだった

金属バットを持ち テーピングでしっかり巻いた

手は100センチほど長くなり 強固になった

 


そして 次々に襲いに行った

まず初めに 支配者の家に複数の穴を開けた

支配者はぐっすりと眠っているようだった

気が付かれずに五人はどんどん進んだ

 


最後にしようと 彼は初めから決めていた

(何が友人だ 赤い線なんて描きやがって)

四人は何十軒も回って疲れたので帰ると言い出した

彼は「友人」の家へ 一人で行くことにした

 


「友人」はインターホンに出た

「待て 落ち着け 今からそっちへ行く」

エレベーターを降りて ロビーに来た「友人」は

硝子の自動ドア越しに青い線の顔で 彼のことを見た

 


「お前 顔が真っ赤じゃないか それ 血か?」

「友人」は彼に尋ねた 彼は戸惑った

「お前が何故青い線を…?」と 思わず呟いた

「は? お前何言ってんだ?」と 「友人」は答えた

 


「そんなことより それバットか?」

「友人」はただ事でないことを察知していた

「うるせえ 俺を馬鹿にするな!」と言って

彼は頑丈な硝子を叩いたが ヒビが入っただけだった

 


「やめろよ!なんでこんなことするんだ!」

「友人」は自動ドアに近付き 開けた

バットを振り下ろす彼のみぞおちを殴りつけ

気絶させて 自分の部屋へと担いで行った

 


寝かされた彼の顔に もはや青い線は見えなかった

「友人」は 彼がしでかしたことを

被害者たちの連絡によって知ったが

すぐに警察に連絡することはしなかった

 


彼が気がつくと 「友人」は地べたに座っていた

彼はリビングのソファで寝ていたことに気が付いた

「お前 なんで 青い線なんだよ」彼は力なく言った

「意味わかんねえこと言うなよ それにしても…」

 

 

「お前 良くやったな 俺もあいつらが嫌いだったよ

 口を開けば 自分のことばかりでよ

 聞いてもないのに 今月の給料を教えてくる

 言いたくないのに 今月の給料を聞いてくる」

 


彼は困惑した 「お前は あいつらと同じだろ?」

「友人」は彼のためのコーヒーを煎れながら

「フリをしていただけだ 強がらないと ナメられる」

そう言って コップを差し出した

 


コップを受け取る彼の手は 小刻みに震えていた

「友人」が剥がしたテーピングとバットが落ちていた

「それにしても不思議だったな」と「友人」が言った

「何が不思議だったんだ お前は」彼は聞いた

 


「いや さっき下でお前を見た時

 返り血を浴びたみたいに 顔が赤かった気がした

 人を殴ったりしなかったんだろ?

 バットにだって血がついてない 気のせいかもな」

 


彼の顔は みるみるうちに青ざめていった

確かに 彼は人ではなく 物だけを壊していた

「友人」の顔に描かれた 綺麗な青い線を眺めながら

彼はコップを置き バットを掴み 「友人」を殴り殺した