No.456 そして彼は部屋を出て行った

 

 

「一つ 良いことを教えておいてやろう」

椅子に縛られたままの彼の前に弾丸を並べ

黒目の大きな男は低い声で続けた

「お前は 今晩この世から消え去る」

 


彼の身体は恐怖に震え 瞳に涙を浮かべた

命乞いの言葉を考えてみたのだが

何故か相手を怒らせる言葉しか出てこない

彼はじっと 男を見つめ返すことしか出来ない

 


「悪くない人生だっただろう?」

彼はそう聞かれて 人生を思い返してみた

ろくでもない だらしない 最期まで不甲斐ない

「負けたわけじゃない お前には騙された」

 


男はそう言うと 弾丸の側に置いていた

ワインの入ったグラスに口を付けた

彼は男の喉仏が上下するのを見届けて

呼吸が次第に落ち着いていくのを感じた

 


男はもがき苦しみ始めた

シリンダーに弾を込めようとしても

手が滑り 咳が出る ゴホッ ゴホッ

先ほど飲んだ赤ワインのような血を吐く

 


彼は男の吐いた血を顔面に受け止めた

目に入らないように目蓋を閉じていた

目蓋を開けると 視界も少し赤くなった

男は彼の足元で 起きる気力も無いようだ

 


彼は椅子を揺らして 自分の身体ごと倒した

縛られた紐を 男が持っていたナイフで切った

両手が自由になり 両足も自由にした後

「悪くない人生だっただろう?」と言った