No.408 青い空

 

 

いつものように彼は時計を見た

短針と長針が曲がり過ぎて時間がわからなかった

秒針が高速で回り 手首を削り取ろうとしている

彼は目蓋を閉じて 眼鏡の跡を押さえた

 


裸眼の世界はいつもより激しく動く

抽象的な人間の図が様々に移動していく

色は奇抜さを覚え 線は忙しく変わる

それから空は こんなにも青い

 


いつものように彼はホームに立った

目の前を少し停車した電車が発車した

気付かないうちに 周りの人は消え

数分待つと また並び始めた

 


裸眼の世界で彼はゆっくりと動いた

空っぽになった身体を感じていた

色は減ってゆき 線は面に変わって

それから空は こんなにも黒い

 


いつものように夜は訪れた

短針も長針も駅も全て同じ色

彼はその色を怖がりながら

目を閉じて家へむかった

 


裸眼の世界を彼は遮断した

夜と同じくらい 黒い目蓋の裏

色は好きに選んで 線で描いた風景

それから空は こんなにも青い

 


裸眼の世界は彼を置いてゆく

全ての物事が 先へと進んでゆく

色は混ざり合って 線は風に揺れて

それから空は こんなにも青い