No.333 忘れられた男

 

 

かつて 一日に彼を見ない日はない

そんな人気者だった彼は 当然のごとく捨てられ

置き去りにされた寂しさから 酒浸りになって 

この世のあらゆるものから逃げていた

 


彼は誰かの夢の死骸の上に立っていた

今では 自らの夢を見失って

風船を手放してしまった少年のように

無限に広がる空を見つめている

 


彼が手にした財産は 何かを考える時間と

過去を貪り尽くす時間を 充分に与えた

しかし そんな時間すら滞り始めると

あとは自殺をする方法を考えるようになった

 


彼を崇めていた連中は 彼に飽きただけで

罪の重さなどは 感じてもいないだろう

所詮 遊び尽くされた玩具と同じ

彼は 自分の意思だけでは生きていけない

 


彼は 誰かの夢になったかもしれない

しかし それも過去になれば 無意味になる

彼が積み上げてきたものも 今では崩れていて

毎日 酒を飲むことでしか 自分を保てない

 


そして 想像上で 何度も何度も

自分の頭に向けられた銃の引き金を引く

爆音と共に 吹き飛んだ頭蓋骨と脳髄が

壁に突き刺さり へばりつき 満足して眠りに落ちる

 


誰かが どこかで 彼のCDを聴いている時

彼は 知らぬうちに また蘇っているのだろう

しかし もう遅い あまりに時間が過ぎてしまった

彼が真に蘇ることは二度とないのだろう