No.552 余白

 

 

全て過去形になる その前に

夢と消えてゆく その前に

この思いを手紙にしよう

彼はそう考えて 筆を取る

 


言葉を探しても 出てこない

愛する人など もういない

この思いは言葉でなく

彼の脳内で完結する

 


死んだ蝉の においにつられて

残された僅かな時間を数え

季節が終わってしまう その前に

彼は諦めようとだけしている

 


全て未然形になったとして

現実が残酷さを露わにして

この思いがどこにあるのか

彼はわからなくなってしまう

 


言葉を探しても 意味はない

初めからそんなもの ありはしない

この思いは音楽になる

彼の脳内で完結する

 


生きる術を 失ったとして

残された僅かな時間はそこに在って

季節が終わろうとする間にも

彼は暴れるだけ暴れる

 


全て水の泡になる その前に

朽ちて果てゆく その前に

過去が彼を追い越す その前に

永遠の苦痛を受け入れる その前に

 


彼は二度と戻れない あの場所を

必死に思い出そうとする

何もない 誰もいない 当然のように

余白だけの 過去が彼を見返す

 

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