No.321 ブラックコーヒーと紅茶

 

 

「真実は 犯人が誰かなんて単純なことじゃない」

ブラックコーヒーが彼の喉を通る

「昔好きだったアニメで 一つだって言ってたけどな」

彼の話を聞く男の喉に 熱い紅茶が通る

 


「あれはただの子供騙しだ ガキ向けの戯言」

ブラックコーヒーの匂いが彼の鼻から抜ける

「では真実とは? お前の意見はなんだ」

紅茶の香りが男の癇に障る

 


「真実は 到底たどりつけないものだ」

彼は苦味で頭が冴えてゆくのがわかる

「それじゃ答えになってないだろ 答えろ」

男は渋味で不機嫌になっている

 


「真実とは この話が無駄ってことだよ」

ブラックコーヒーが冷めてくる

「まあそうだろうな お前はむかつく奴だ」

紅茶も冷めてくる

 


「さて 本題に戻ろうか」

ブラックコーヒーは飲み干され また注がれる

「さっさと話しやがれ」

紅茶も飲み干され コップは空のままになる

 


「あんたに疑いが向いている」

ブラックコーヒーは美人と離れて寂しがっている

「俺が何をしたって言うんだ」

コップはそのままにされて悲しんでいる

 


「いや 知っているんだ 心根は優しいことはな」

ブラックコーヒーが彼の喉をくすぐる

「勿体付けるな さっさと結論から話せ」

コップはどんどん冷えて机に張り付く

 


「すまないな」

ブラックコーヒーは銃声を聞く

「」

コップは男が倒れた衝撃で床に落ちて割れる

 


「ブシッ 

            ズォッ 

                    プシーーーー 

                        フスーーーー」

ブラックコーヒーはタバコの匂いを嗅ぐ

「」

コップの破片は男にのしかかられる

 


「真実は 死をもって完成される」

ブラックコーヒーは 灰皿代わりになる

「」

コップの破片は 男にめり込む

 


「人が一人死んだくらいで騒ぐんじゃねえよ」

ブラックコーヒーは煙草の味を確かめている

「」

コップの破片は 男とひとつになる

 


「」

ブラックコーヒーはニコチンとタールに飽きている

「」

コップの破片は 男の身体を知り尽くす

 


「」

ブラックコーヒーは震える美女の手で下げられる

「」

コップの破片は 随分とそのままにされる